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大学入試 英語4技能とCBT

この春東京都教育委員会では、公立中学校の全3年生を対象に、英語のスピーキングテストを2021年度に始めることを決定しました。2022年度の都立高校入試でその結果を活用する方針で、現在の中学1年生から導入されることになります。

ご存知の通り、大学入試においては2021年1月、「センター試験」に替わる「大学入学共通テスト」がスタートするなど、今進められている教育界の改革はドラスティックなものになります。単に知識を問うだけでなく、論理的思考力、判断力、表現力を測るために、国語と数学では記述問題を導入し、グローバル人材育成の基盤となる英語では、「読む」「聞く」だけでなく、「話す」「書く」も含めた4技能をバランスよく評価していこうとしています。このような流れを背景に、東京都教育委員会のスピーキングテスト導入は決められたわけで、このような動きは全国の中学校にも波及していくものと考えられます。

さて、この英語4技能の評価は、これまでにはなかったハードルとなります。現在文部科学省が大学入学共通テストにおいて認定する外部検定試験はCambridge English、IELTS、TEAP、TOEFL iBT、TOEIC、 英検、GTECの7団体23種類あるわけですが、到達レベルの評価については、CEFRを基準にします。CEFRとは、Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment の略称で、語学シラバスやカリキュラムの手引きの作成、学習指導教材の編集、外国語運用能力の評価のために、透明性が高く、分かりやすい、包括的な基盤を提供するものとして、20年以上にわたる研究を経て策定され、欧州域内外で使われているものです。高3の4月~12月に受験した外部検定試験の得点が、このCEFRのA1~C2のどのレベルであると判定されるかが大学入試に反映されます。どの外部検定試験を利用するかは受験生が決定しますが、受験しようとする大学によって活用する外部検定試験が異なります。例えば広島大学や岡山大学など多くの国立大学は、Cambridge、英検、GTEC 、IELTS 、TEAP、TOEFL iBT、 TOEIC の内から幅広く選べますが、私立大学の中には早稲田大学の英検、IELTS 、TEAP、TOEFL iBTのように、少し選択の幅が狭い場合もありますので、早めに志望校を考えて準備する必要があります。

また、受験費用や受験機会も異なります。英検2級:5,800円、英検準1級:6,900円、英検1級:8,400円、GTEC PBT:5,040円、GTEC CBT:9,720円、TEAP /TEAP CBT:15,000円、TOEIC L&R:5,725円、TOEIC S&W:10,260円、IELTS:25,380円、TOEFL iBT:235ドル(5月末時点でおよそ26,000円)…というように大きな差があります。地元福山の高校にたずねてみると、公立のS高校やO高校ではともにGTEC、ある私立高校では英検、またある私立高校では英検とGTECから選んで取り組ませているとのことです。活用する大学の多さや経済性、高校生に馴染みがあることなどから、英検とGTECに受験者が集中することが予想されます。

そして、この外部検定試験の名称に「CBT」という、ひと昔前ではあまり見慣れなかった言葉が、度々目につくようになりました。Computer Based Testingの略で、つまりコンピューターを使った試験のことをいいます。これまでのようなペーパーテスト(Paper Based Testing=PBT)とは違い、全く紙を使いません。認定されている8種類の内、英検、GTEC、TEAP、IELTS、Cambridgeの5種類で、CBT方式の受験が可能です。CBT方式のメリットは、実施回数が多いので自分の都合の良い受験日を選びやすくなることがあげられます。外部検定試験は高3の12月までに受けますが、色々な学校行事などを考慮して受験のタイミングを選択でき、また従来のペーパーテストを並行して受けることで受験回数を増やすこともできるなど、大きな利点があります。また、英検では 二次試験(面接方式のスピーキングテスト)が 別の日に行われますが、CBT方式では4技能のテストを1日で完了することができます。そしてスピーキングテストはヘッドセットのマイクを使って声を吹き込む録音方式になるので、面接委員と対面して話すのは緊張してしまうという人にはプラス要因となります。またGTEC CBTでは、IRT(Item Response Theory=項目反応理論)を活用したCAT(Computer Adaptive Testing=コンピューター適応型テスト)であるために、幅広いレベルの受験者の能力測定を短時間に高精度に行うことができます。例えていうと視力検査の要領です。視力検査ではC(ランドルト環)の隙間の向きを答えていきますが、最初に示したものが見えた場合は次にもっと小さいものが見えるかを問い、見えなかった場合は少し大きいものが見えるかを問うというように、その人に応じてレベル変えて、効率よくその人の視力レベルを確定させるのを思い浮かべるとわかりやすいでしょう。通常測定できる英語能力は、その力に応じた問題でなければできません。ですから英検の場合、準2級➡A1~A2、2級➡A2~B1、準1級➡B1~B2、1級➡B2~C1と測定レベルが限定されますので、受験者が自分のレベルに合う級を受けなければなりません。しかし、GTEC CBTの場合は、同一のテストでA1~C1の5段階のレベルを判定できます。

CBT方式のメリットばかりを挙げましたが、デメリットもあります。まず受験料が従来型に比べ割高です。英検CBTでは1,000円~2,200円、GTEC CBTでは4,680円高くなります。また、コンピューターで受験するわけですから、ライティングは手書きではなくタイピングになるということです。コンピューターの操作が苦手だったり、タイピングに慣れていなかったりする場合は、時間内に書き上げられないなどのトラブルにつながりかねません。我が塾で英語のe-ラーニング教材(中高生オプション)を受講している高校生などの様子を見ると、1年前の受講スタート時に比べ、英文のタイピング速度は格段に上がっているようで、まるでその心配はないようです。普段から英文や英単語をコンピューター入力する機会を頻繁に持てることが条件となりそうです。英検CBTのウェブサイトでは、1分間に30文字を入力する速度があれば問題なしとしています。その利点の大きさを考えればCBTでの受験にチャレンジすべきだと思われます。

4月中旬に実施された「全国学力・学習状況調査」で、中3生たちはヘッドセットに吹き込むスピーキングテストを実際に体験したばかりです。スピーキングは形に残しにくいものであるため、宿題に出されることがなく、自然と入試でも評価してこなかったという経緯があります。これからの英語学習に求められるのは、英語に触れる機会を一段と増やすことはもちろんですが、特にスピーキングスキルを高めることを意識することです。出来るだけネイティブの発音を聞き、そのイントネーションやリズムをまねて声に出していくことが大切です。日本語に比べて聞き取りにくいので、大きめの声で発音することも大事です。どんな状況を想定した会話であるかを思い浮かべながら、自然にアウトプットできるよう自分の言葉にしていかなければなりません。

ヒラドツツジ