沖田学習ゼミナーの教育コラム『おんざうぇい』

  • おんざうぇい2019年3月


  • 2019.03.03

  • クロッカス

    AI時代に必要な力とは

    みなさんは「東ロボくん」というのを聞いたことがありますか。これは、国立情報研究所(NII)が中心となって、2011年から2016年にかけて行われたプロジェクト「東大入試に迫る~コンピューターからみえてくるもの」において研究・開発された人工知能(AI)の名称のことです。このプロジェクトは、2016年までに大学入試センター試験で高得点を取り、2021年度の東京大学入学試験を突破することを目標に掲げました。ビッグデータと深層学習を利用した統計的学習というAI理論で「東ロボくん」の開発は進められました。

    2013年秋、代々木ゼミナールで初めてセンター模擬試験に挑戦。5教科7科目(リスニングなし)の総合偏差値は45.0。翌2014年は総合47.3。そして2015年6月のベネッセ総合学力模試では、総合偏差値57.8まで成績を上げました。特に数ⅠA 64.0、数ⅡB 65.8、世界史B 66.5の成績向上が顕著でした。しかしその一方で、英語 48.4、英語リスニング 40.5、国語45.1となり、言語系教科の成績は低迷したままで、翌2016年も大きな向上は見られませんでした。そこでNIIは決断します。「東大合格に必要な読解力に問題があるため、現在のAI理論ではこれ以上の成績向上は不可能である。」東大合格を断念し、「東ロボくん」の開発は2016年をもって凍結されることとなりました。

    「東ロボくん」の開発を通して、現在のAIの弱点が浮き彫りなりました。AIは検索による膨大な知識はあっても、文章の意味が理解できず、読解力が致命的にないというのです。このプロジェクトディレクタであった新井紀子氏(数学者・国立情報学研究所 社会共有知研究センター長)はAIの特徴を「知識に比べ幼稚な知性」と言いました。人工知能(AI)の「知性」がそのようにアンバランスなのは、AIというものが、徹頭徹尾、数学でできているからで、数学は論理と確率と統計で構成されていて、その3つのどれかを使って人間の考える価値や意味を近似するものであり、そのような「知性」の欠けたAIはすべてを正しい方向には導けないというのです。やはり肝心なところでは人間が必要になるわけです。そうなると、「AIにできることはAIに任せ、人間はAIにはできない仕事ができるようになればよい」ということになります。ところが今度は、「AIが手におえないような仕事が、本当に人間にできるのか」ということが問題になってきます。なぜなら、東ロボくんが達した総合偏差値57.8という成績は、全受験生の上位20%に入るレベルであったわけで、大半が劣ることになるからです。人類が目指すのはAIに支配される社会ではありません。将来にわたってAIを制御するのは人ですから、人がAIに欠けている「知性」をこれまで以上に磨かなければならない時代になったということにほかなりません。

    前述のNIIの新井教授は、「東ロボくん」開発が凍結された後、AIが不得意な「知性」、つまり「読解力」を高めるプロジェクト「リーディング・スキル・テスト(RST)」の研究を始めました。その調査の中であらためてさまざまなことがわかってきたそうです。AIには決してできない能力を持っているはずの子どもたちが、教科書の文章をきちんと読めず、AIと同じようにキーワードだけで問題を解こうとしていたというのです。確かに子どもたちと接していて思い当たる節があります。定期試験に向けて勉強しているとき、提出課題のワーク類をやっているのを見ると、ネットでキーワード検索するように言葉探しをしているように見えるのです。答えが間違っていた時に再考を促すと、根拠もなく次から次へと連想する用語が口から飛び出してくるような様子も、関連する言葉を統計的に割り出して候補を挙げるというAIのようです。学習するとき「どんな仕組みになっているのか」、「どうしてそうなるのか」を考えるプロセスがなければ、本当の意味で理解したとはいえません。「問題を解く前に、まずは教科書に書いてあることをしっかり理解しなさい」といつも私たちが口を酸っぱくして言う理由です。そして問題を解くときには、問いを正しくとらえなければ、正しく思考して表現して答えられないというのも当然のことでしょう。

    そして事は子どもたちだけに限らないようです。このRSTを企業でも活用したところ、一部上場企業であっても中学生並みの読解力しかない社員が一定割合いることが判明したというのです。仕事で難解な文章にも触れなければならない社会人にして、中学生レベルの文章読解力しかないとなると、業務遂行に大きなリスクを抱えることにもなりかねません。

    そもそも「読解力」とはどんな力なのでしょうか。一言でいうと「文章を読んでその内容を理解する力」であるわけですが、読解力は文章を読むときだけでなく、人の話を聞いてその要点を理解したり、話し手の意図することや感情を推測したりする上で大いに発揮される力です。また文章だけでなく、さまざまな資料を読み解く助けにもなるでしょうし、自ら論理的に表現して他者に物事を伝えるための力にもなると考えられます。

    では、どうすれば読解力を身に付けることができるのでしょうか。子どもたちに文章を読んでもらったとき、その理解度に大きな差があると感じる原因の一つは語彙力です。意味がわからない言葉に出会うと子どもたちの思考がそこで止まってしまいます。しかし、普段から文字に触れる習慣のある子どもは言葉の意味をよく知っていますし、知らない言葉に出会ったときも文脈から意味を推測しながら全体を読み通すことができます。一方文章に不慣れな子は、知らない言葉が多く、文節でとらえることが苦手です。辞書も使わず、そこから前進できないのも普通のことです。また漢字の知識も大きな影響があります。漢字が好きな子は、漢字やその部首の意味などに興味を持っている場合が多く、新しい熟語に出会ったときは、漢字の意味から熟語の持つ意味を推測することができます。漢字に強い子が、ことさら漢字の練習をしているというわけではなさそうです。

    そして読解力のある子は、文字に表現された情報を、自分の頭の中にイメージすることが上手であるということです。これは文字に触れる量というよりは、文字を楽しんでいる量に比例する面は大いにありそうです。定期試験前によく勉強に来る生徒の中に、ちょっとした勉強の合間に、すぐ自習室にある本棚の本を手に取る子がいます。読書の楽しさを知っているのです。もちろん読解力もあります。ですから、試験勉強はまず教科書をよく読んで理解するということを実践してくれています。見た目にはあまりガリガリと勉強しているようには見えませんが、しっかりと理解しているので学習が短期記憶にはならず、本当の意味で自分の力になっているように思われます。読解力向上の手立ては、色々なところにヒントがありそうです。

    苺の花2019


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