イダ

好奇心

今年の梅雨明けは、6月27日頃でした。これは1951年に広島地方気象台で観測が始まって以来最も早い記録なのだそうです。平年は梅雨入りが6月6日頃、梅雨明けが7月19日頃ということで、平均的な梅雨の期間は43日間くらいあるはずなのですが、今年は18日間しかなかった計算です。芦田川の渇水で福山市内の水道の断続的断水を余儀なくされた1994年でさえも、梅雨は31日間あったわけですから、今年の梅雨の短さは異常です。備後地区の水がめ八田原ダムの貯水率は7/30現在76.1%。水は大切に使いましょう。

さて、そんな暑さも格別の7月上旬の日曜日、今年も小6生たちと野外学習会に出かけました。場所は三次市にある県立みよし風土記の丘ミュージアムです。この公園には、5~6世紀に築造されたと推定される176基の古墳群を中心とする約30haが広域的に保存されています。 到着後まずは公園内の探索です。最初に訪れたのは、国重要文化財である旧真野家住宅です。これは世羅町にあったものを移築した茅葺(かやぶき)の家屋で、江戸時代の初め頃建築されたものです。中に入ってみると、土壁や茅葺屋根の断熱効果でしょうか、少しひんやりと感じます。蚕から生糸を作った糸巻きや、シーソーのようなものを足で踏んで米をつく臼など、現代の生活には見られないものばかリですが、それぞれ工夫をこらしていることがわかります。現在の文明が先人たちの知恵を集積することによって創り上げられたということが、しみじみと感じられます。

かやぶき

茅葺屋根は数年前の修繕におよそ1200万円かかったとのこと。材料の調達もさることながら、扱える職人が少なくなっていることから、その費用は高価なものになっているようです。その屋根材の茅(かや)というのは、植物名ではなく、屋根をふく草の総称であるとのこと。茅に使われる植物はヨシ、ススキ、チガヤ、コムギ、イネなどということで、実際の屋根をよく見るとヨシやススキやムギを3層に分けて作られていることがわかりました。大人の私たちも初めて知ることがたくさんあります。

古墳頂上②

その次は古墳見学です。公園内の176基の古墳の中で最も標高が高い所にあるのが七ツ塚第15号古墳という円墳です。頂上から四方を眺めるとなかなかの絶景です。ここにどんな人が葬られたのだろうと遥かいにしえの世がしのばれます。ここで学芸員さんから質問です。「この古墳の直径は?」実はスタート地点から100mを歩くのに何歩かかるのかを数えていました。100mを歩数で割れば自分の一歩分の長さが分かります。この古墳の周囲を歩いて(一歩分の長さ)×(歩数)=(古墳の外周)となります。そして、(古墳の外周)÷ 3.14=(古墳の直径)と求められます。正解は28.5mだったのですが、全員ほぼ正解!

高床倉庫2025

公園内には竪穴住居や高床倉庫も再現されています。竪穴住居の中は外気に比べて気温が低いようです。地面を少し掘り下げてある分、一年を通じて室温が一定に保たれやすいのだそうです。でも、少しジメッとした湿気を感じます。続いて高床倉庫に入ってみると、こちらはずいぶん風通しが良く、快適に感じられます。でも、気温は竪穴住居に比べて高いようです。日本のじめじめとした夏は、風通しを良くすることで対処するのが有効なのだと今さらのように思い知らされた瞬間でした。 お昼は、火起こしと再現した土器での炊飯です。まず火を起こせなければ、ご飯が炊けないわけですが、今年の6年生は優秀でした。2グループともあっという間に着火に成功! 火を移すのに手間取ったグループもありましたが。ご飯の炊け具合は最高で美味しく頂きました。

火起こしゆう

昼食の後はミュージアムの見学です。入り口には、大きな象のシルエットを写したタペストリーがかけてあります。かつて日本の旧石器時代にいたナウマンゾウです。こんな巨大な動物の肉を、どうやってt取り分けたり保存していたのでしょう。 邪馬台国の女王卑弥呼が魏から贈られたといわれる三角縁神獣鏡も展示されています。復元したもので自分の顔を映してみると、予想以上によく映せます。こんな金属の鏡や銅鐸などをどうやって作っていたのでしょう。聞けば、金属加工の業者の方が技術を本気で学ぶために訪問されたとのことです。現在の普通の鋳造技術ではできないような技術が古墳時代にあったというのです。聞けば聞くほど、学べば学ぶほど不思議が一杯です。

三角縁神獣鏡観察

この公園には様々な樹木が生えているのですが、突然学芸員さんが道端の木の実を摘み取って渡してくれます。ネズという木の実だといいます。少しつぶしてにおいをかいでみるとさわやかな香りがします。「これはお酒の香りづけに使うのですが、何のお酒かわかりますか?」「ジンですか?」「大正解!」 大人の雑談でしたが、そうだったのかと感動してしまいました。 園内ではセミがたくさん鳴いていましたが、今はクマゼミが多いとのこと。昔ならばセミといえばアブラゼミだったはず。また公園内の樹木の多くが傷だらけになっていることに気付きます。犯人はシカです。オス鹿の角は毎年生えかわるですが、角を木の幹にこすりつけて研いでいるのです。昨年は鹿の群れに遭遇しましたが、ひと昔前に鹿などそんなに頻繁に見かけることはなかったそうです。里山といわれる豊かな自然の残る里山でも、生態系が大きく変わりつつあるようです。 猛暑の一日でしたが、生徒たちにとっては非日常を身をもって体験する特別な一日になったのではないかと思います。五感を総動員して感じた感触や空気感は財産になるはずです。色々なことに好奇心を持てる感性を身につけてほしいと願っています。

カブトムシ