ケイトウ①

伝統と変化

今年の夏の甲子園は、京都国際高校の初優勝で幕を閉じましたが、色々な新しい試みが目につく大会でもありました。

第1日目から第3日目の限定ではありましたが、猛暑の時間帯でのプレーを避けるために、試験的に「朝夕2部制」を導入しました。猛暑から選手を守るための対策の一つですが、観客や応援団の健康を守るためのものにもなります。しかし、わずか3日分では効果も限定的です。開催期間が長くなれば、ホームグランドとして利用するプロ野球球団との兼ね合いも出てきます。同じ高校生による軟式野球の全国大会は、複数会場で分散して試合を運営していきますし、学生スポーツに限らず、全国大会は分散して開催するのが普通です。『伝統の甲子園大会だから』という理屈なのかもしれませんが、議論されるべきことかもしれません。

また昨年から5回終了後に10分間の「クーリングタイム」を設けました。選手たちはベンチ裏で首や額に氷嚢を当てたり、水分補給をしたりして体調を整えました。

道具にも変更がありました。今春から低反発の新基準のバットが導入されたのです。2019年夏の大会で起きた、打球が投手の顔面を直撃し骨折するという出来事が契機となりました。昨年の大会でのホームラン数が23本だったものが、この夏は7本に激減したというのは明らかな効果でしょう。パワーで勝負する野球から、足を使ったり守り勝つ野球へと変化していくきっかけになるかもしれません。

そして延長戦は、ノーアウト一塁・二塁から始まるタイブレークが導入されています。過去の名勝負には、『延長○○回までの死闘』などと語られる接戦が挙げられることがしばしばですが、タイブレークは大学生などの大会などでは以前から導入されており、高野連もやっと改革に乗り出したのかという感があります。暑さや疲労、水分不足などから足を痙攣させる選手の姿を見る度に、高校野球ならではの光景だと感じていました。従来の延長戦に比べて面白味がなくなるのかといえば、そうともいえません。タイブレークでの延長戦の戦い方というのも、戦略性があって興味深いものがあります。

一方チームの方でも色々な工夫をしているようです。広島県代表の広陵高校は、暑さ対策でアンダーシャツ、帽子、打者用・捕手用ヘルメットの色を従来の黒色から白色のものに変えました。これは同校の中井監督の発案で、その効果は小さくないようでした。捕手の只石主将によれば「頭がぼーっとする感覚がなくなった。熱がこもらない。」とのこと。選手が快適にプレーするために伝統のユニフォームを変えるという、固定概念にとらわれない柔軟な対応に感心してしまいます。中井監督は、伝令が投手の所へ行く際に給水をさせるようなことも可能になるように高野連にはたらきかけたいとのことでした。

伝統的な高校野球が変化しつつあるように感じます。2020年のセンバツから、投手の1週間に投げられる球数の総数が500球以内と制限されました。投手が過度に多くの球を投げることは、肩や肘に大きな負担をかけ、けがを引き起こす原因となります。選手の健康を守るのは学生スポーツの基本です。このルール導入もあり、継投で戦う野球が定着しつつあります。一方、現在の9回制は長過ぎるので、7回制に変えてみてはどうかという意見も出てきているようです。まだまだ議論されるべきことがあるのかもしれません。

さて、そんな今年の大会で、わくわくさせてくれるチームがありました。島根県代表の大社高校です。世代でしょうか、大社といえば『シンガーソングライター竹内まりあ出身の公立高校』でした。体育科がある高校とはいえ、公立高校であり、しかも島根県の出場チーム数は、全国49地区中9番目に少ない38校です。高校野球の実力校といえば、野球留学で他の都道府県からも多くの選手が集まる私立高校が大半です。そんな中で1回戦はセンバツ準優勝の報徳学園(兵庫)を3-1で破り、2回戦では九州の強豪・創成館(長崎)に5-4で延長10回タイブレークで競り勝ち、3回戦では全国制覇の経験もある早稲田実業(西東京)を3-2で延長11回タイブレークの末破ってのベスト8進出でした。準々決勝では惜しくも神村学園に2-8で敗れましたが、その戦いぶりはとてもさわやかでした。強豪校といえば絶対的な剛速球を投げるピッチャーがいたり、猛打の四番バッターがいたりするのが一般的ですが、そんな目立った選手はいません。監督も名将と呼ばれるようなカリスマ性を持った人ではなく、選手と相談しながらサインを出していたといいます。早稲田実業戦の延長11回裏送りバントの場面では、代打でバントをする選手の立候補をベンチで募ったそうですから驚きです。これまで甲子園に出場した中で、そんなチームがあったでしょうか。監督の指示のもとに動くのではなく、選手自らが主体的に野球に取り組み行動するというのがベースにあるのだそうです。こんな高校野球ができたら楽しいでしょう。

おそらくスポーツだけではなく、学習においても同じことがいえるでしょう。社会人になって仕事をする上でも同じかもしれません。先生や上司から言われたことをする場合、上手くいけば問題ありませんが、つまずいたり失敗したときは、責任転嫁しがちなものです。自分で考えてやったことならば、責任感を持って、どこに原因があるかを自己分析して、次の工夫がまた生まれてきそうです。上手くいけば、もっともっと楽しくなるはずです。子どもたちのそんな自主自律の精神を育みたいものです。

トマト