赤い菊

理科・社会の学習

「理科と社会では、どちらが好きかな?」生徒たちにそんな質問をすることがあります。すると、小学生ではおおむね理科の方が人気があります。理由をたずねてみると、実験や観察がおもしろいからだという意見が多いようです。中学生になると少し様子が違ってきて、人気は社会と理科に二分されてきます。歴史が面白くなってきたり、理科が単元によって難しくなってくるからのようです。そして高校生では、理科が圧倒的に不人気になります。学習が進むにつれて理論が難解になり、また計算問題も複雑になって、理屈を積み重ねる必要があります。志望大学を理数系から文系に変更する場合が少なくないというのも、その現れでしょう。

学問というものは、日常生活の中の目に見える現象のような具体的な事象を学ぶところから始まり、それが進んでいくにつれて抽象的な理論や概念を学ぶというように、表面的なことから仕組みの理解や応用へと徐々に深化させていくものです。理科や社会は一般的に『暗記科目』と言われることが多いわけですが、丸覚えだけでは、短期的な記憶にはなり得ても、長きにわたって生きる本当の学力にはなかなか結び付いていきません。自分の中にある具体的なイメージや知識と関連付けて思考することで、考えを深めたりさらに発展させることができるのです。そのような意味で、幼少のころから日常生活の中で実体験を豊富に積んでいくことがとても重要になってきます。

学校において、教室での勉強だけでなく、遠足や音楽鑑賞、演劇鑑賞、社会見学、林間学校、臨海学校、修学旅行などと色々な校外での行事があるのも、同様の意図があるためです。自分自身の経験でいうと、初めて奈良の東大寺の大仏を見たとき、大仏はとても大きいものだと思っていましたからあまり驚きはありませんでしたが、南大門に安置されている金剛力士像を見たときはびっくりしました。教科書で見て想像していたものよりもずっと大きくて迫力があり、「どうやって造ったんだろう?」「どうやって据え付けたんだろう?」などと疑問や感動を持ったことが思い出されます。百聞は一見に如かず。実際に自分の目で見たからこそわかったことであり、けっして写真では伝わらないものだったのです。我が塾でも例年小6生と古墳探索や火起こし・炊飯体験に出かけていますが、そこでは教室で教わることのできない様々なことを五感を通じて体感することができ、全身に有機的なものとなって記憶されていると思われます。人の興味の対象は、成長にともなって身近なものからだんだん遠くのものへと広がったり、目に見えるものから目に見えないような微細なものや、限りなく大きなものへと移っていくことになります。将来様々な方向に興味を広げ、思考を展開していく上で、そのような実体験が生きた力になるはずです。

有馬石垣

さて、受験生たちにとっては、受験が差し迫った今のような時期においては、理科と社会の学習が重要な意味合いを持つことになります。他の国語・数学・英語のような積み重ねの教科とはちがい、理科・社会は学習のやり方次第で効率よく得点力をアップしていくことができるからです。前述のように実体験を積むような時間はありませんから、いかに上手くインプットできるかの勝負になります。学力の基盤となる基本をしっかりおさえ、それに積み上げるようにして知識を伸ばしていかなければなりません。

まず理科の学習は、単元をしぼって学習できることがメリットです。それぞれの単元が独立した内容になっていることが多く、一つずつ出来る単元を地道に増やしていくようにして攻略します。まずは教科書をよく読んで、内容を理解していきます。教科書には実験や観察、そしてその考察が出ていますから、その実験でどんなことがわかったのかをおさえる必要があります。実験の手順や器具などの扱い方などの注意事項も確認します。そして実際に問題を解いてみることで、本当にわかっているかどうかを確認します。覚え込まないといけない用語もありますが、けっして答えを写すだけの作業になってはいけません。

そして社会は、小中学生では、地理・歴史・公民で攻略法は異なります。まず地理は、その地域の地形・気候・資源などの基本的な地理的要素をを地図上で覚えていきます。農業・林業・水産業は気候や風土と強く結びついていますし、工業は資源と強く結びついています。衣食住の文化は気候・宗教・民族と関連付けて考えます。教科書に出ている統計資料は、重要ポイントですから、読み取れる特徴的なことがらを必ず理解するようにしましょう。

歴史は、各時代ごとの流れを理解するように、教科書を読み進めます。理解したことをまとめて整理したい場合は、簡単な年表を作るとよいでしょう。あまり細かい内容は避け、各時代の「主な政治上の人物」「主な出来事」「外交・貿易」「文化・学問・宗教」「産業」を大雑把におさえるだけにします。それぞれの時代が理解できているならば、大まかな内容でも付随する内容を連想できるでしょう。

公民では、教科書で説明されている図表などの資料が特に重要です。その資料の内容を理解するように教科書を読み進めていくのが近道だと思われます。用語を覚えることも必要ですが、何よりもその用語の中身を理解することが大切です。その上で一問一答集などで重要語句の確認を反復して行うのが有効です。

高校生はさらに細分化された教科区分になりますが、やはり教科書が基本であることはいうまでもありません。共通テストでは過去問や予想問題をたくさん解くことで、出題水準を理解し、問題慣れすることが求められます。

小中高生いずれの場合も、教科書が基本ですから、わからないことに出会ったら教科書を開いて確認するようにしてください。定期試験の勉強をしているの見ていると、教科書をよく読まないでいきなり問題を解くという無謀な姿をしばしば目にしますが、勉強は基本を固めるところから始まります。応用問題といえども、基本に立ち返って考えてみるとすんなり解ける場合が少なくありません。しっかりと学力の幹を太らせ、枝葉を茂らせて、志望校合格の実を結ぶことを願っています。

松と青空