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DX(デジタルトランスフォーメーション)

2月末、大手自動車メーカーの関連企業である部品メーカーがサイバー攻撃を受け、部品供給が滞ったために、この自動車メーカーの国内すべての工場の操業が丸一日ストップするというトラブルに見舞われました。ロシアのウクライナ侵攻に対して、国際社会が対抗措置を進めているというタイミングで起きた出来事であり、誰による犯行であるかは予断を許しませんが、デジタルネットワークによって結ばれた国境線のない世界が抱える、危険性が露呈したものだといえます。

サイバー攻撃とは、企業や個人の情報資産や個人情報、クレジットカード情報を盗み出したり、消去や暗号化などを行って機器利用を不能にしたりするなどの攻撃を意味します。近年、特定の組織や企業を標的としたサイバー攻撃が増えているそうです。サイバー攻撃に備えるには、不正侵入検知や防御システムなどの入口対策をはじめとして、ファイルの暗号化などの内部対策、情報流出を防ぐ出口対策など、様々な対策を講じる必要があるのだそうです。アナログ人間にはなかなかわからない世界で、その防衛には専門的知識が必要です。

「自分はそんな世界とは別世界で生きている」などと考えてしまいそうになりますが、私たちの日常生活はすでに、複雑に絡まり合ったデジタル情報による管理のもとにあるといえるのかもしれません。近年しばしば耳にする言葉に「DX(デジタルトランスフォーメーション)」というものがあります。これは2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授によって提唱された概念で、「進化し続けるテクノロジーが人々の生活を豊かにしていく」というものです。言い換えると、「進化したデジタル技術を浸透させることで人々の生活をより良いものへと変革すること」となります。「Digital Transformation」を直訳すると「デジタル変換」という言葉になりますが、「変換」というよりも「変革」の方がふさわしいようです。経済産業省は「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会ニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義しています。

デジタル時代が始まった頃は、デジタル変革の取り組みといえば、ビジネスをオンライン化することだけが目的で、明確な戦略を持ってデジタル変革を進めたとはいえませんでした。組織のデジタル化が進むにつれ、人、プロセス、テクノロジーといった、組織全体の方針を転換し、顧客に優れたサービスを提供することが目的となっていきました。

DXは、今や企業活動における合言葉となりつつあります。ではDXとは、具体的にどのようなことに取り組むのでしょうか。次に示すような、カメラを例にした簡単な解説があります。

①アナログ情報をデジタル化する「デジタイゼーション」を行う

《具体例》フィルムカメラをデジタルカメラに変える。

②プロセス全体もデジタル化する全域的な「デジタライゼーション」で新たな価値を創造する

《具体例》写真現像の工程がなくなり、オンライン上で写真データを送受信する仕組みが生まれる。

③その結果として社会的な影響を生み出すのが「デジタルトランスフォーメーション」

《具体例》写真データを使った新たなサービスやビジネスの仕組みが生み出され、SNSを中心にオンライン上で世界中の人々が写真データをシェアするようになる。

新型コロナ流行の始まった一昨年以来、様々な社会活動が制約を受け、リモートでコミュニケーションをとる必要性が一気に増しました。その結果、あらゆることにおいてネット上で情報交換をすることが格段に増えました。情報のデジタル化はこれまでも進んでいたわけですが、従来は紙であった書類をクラウド上で編集したり保存したりすることにより、その書類の保管倉庫が不要になり、紛失リスクもなくなります。そしてその書類はどこにいても取り出すことができますから、リモート会議でも必要に応じてシェアできます。やってみると、なるほど便利です。紙の書類を携えて遠方まで出張し、一堂に会して話し合いを持たなければならないというこれまでの固定概念が壊されました。これまでも技術的に可能であったのに、取り組んでいなかったことがもったいないくらいです。物事は必要に迫られなければ、なかなか進まないということなのです。しかも、やっていく中で「こんなこともできるのではないだろうか」という新しい可能性に気付き始めます。端的な例ですが、このようなことが新しい活動やビジネスを産み出す原動力になるわけです。

DX推進は今後ますます進展すると考えられますが、そのためには様々な課題があります。中でも大きな課題となるのが人材です。新たなデジタル技術が次から次へと登場する中で、それらを活用してどのように変革していくかを検討する人材が不可欠なわけですが、十分なIT知識を持つ人材がいないために、外部の業者に丸投げするケースが日本では多いのだそうです。しかしながら、少子高齢化にともなう労働力人口の減少やIT需要の高まりにともなって、社会全体で深刻なIT人材不足にあるというのです。ならばIT人材をもっと育成するしかないということになります。

コロナ禍ということもあり、小中学校におけるGIGAスクール構想が前倒し的に推し進められ、高校では新教科「情報」が新年度より導入されますが、このような時代的背景があるというのが、これらの教育行政を推進する理由であるわけです。傍から見ている我々からすると、IT機器でなければできないことにもっと利用し、学習の深い理解に役立ててほしいという思いがありますが、まずはIT機器を身近なツールとして慣れ、それを様々な活動に活用できるスキルを徐々に身につけていくことが望まれているのです。

アナログ人間である私たちが子どもたちに願うのは、ITスキルを身につけるだけでなく、他の人々がどんなことを感じるだろうかと想像力を働かせて考える習慣をつけることです。ますます進むDXや様々な社会変革の波が、人々の幸せに役立てられることが願われます。

黄色い野の花