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2度目の共通テストを終えて

今年も大学入学共通テストが1月15日・16日に行われました。中間集計で7科目の平均点が過去最低となったことがわかりました。文部科学大臣は「共通テストは各教科・科目の特性に応じて知能・技能のみならず、思考力・判断力・表現力等を重視して評価を行うもの。授業での学習のプロセスや日常生活の場面を題材にした問題、さまざまな資料や図から複数の情報を読み取って活用する能力を問う問題等、単なる暗記再生型の出題ではなく、共通テストが意図する能力を問う点がより明確になっている」との見解を示しましたが、2度の共通テストを終え、明らかにこれまでとは違う方向性が感じられます。

この試験の位置づけについて、大学入試センターのホームページには以下のように書かれています。「大学入学共通テストは、大学に入学を志願する者の高等学校段階における基礎的な学習の達成の程度を判定することを主たる目的とするものであり、各大学が、それぞれの判断と創意工夫に基づき適切に用いることにより、大学教育を受けるにふさわしい能力・意欲・適性等を多面的・総合的に評価・判定することに資するものです。」 しかしながら、教科により基礎的な学力を判定する物差しとしては、修正が必要との意見も出ているようです。

共通テストとなって出題傾向が大きく変わったのは、やはり数学と英語です。特に今年の数学は、中間集計段階で数学I・数学Aの平均点が昨年を17点以上下回り、数学II・数学Bでは昨年を13点以上下回るなど、低得点が目立っており、難化したことは明らかです。数学のどこが大きく変わったのかというと、とにかく文章量が格段に増えたことです。設問の文章が長いため、まず多くの文章や図表などから必要な情報を収集すること、そしてその情報を的確に取捨選択した上で整理し思考する力が必要です。その上で限られた時間内に要領よく処理しなければなりませんから、数学的な問いの要素にたどり着くまでに、大きく手間取ってしまう受験生が少なくないわけです。

今年の英語は若干易化し、昨年に比べ平均点は少し上昇しそうです。ただ、出題内容は、さまざまな話題やシーンを扱っており、図表やグラフなど多様の情報源から概要・要点を把握する力が求められました。大手予備校の分析によると、試験全体の総語数は約6000語で、昨年よりも約450語増加したとのこと。共通テストになり、すべてが読解問題になったことで、全体の語数が一昨年のセンター試験より1500語程度増加したことになります。したがって大量の英文をいかにすばやく正確に理解し、必要な情報をつかみとれるかが重要になります。リーディングの読解スピードを上げて得点力をアップさせるには、まず基本的な文法知識をしっかりと身につけることが前提となりますが、その上で語彙力をどれだけつけられるかが大きく影響します。

共通テスト全般の傾向としていえるのは、長い問題文や多様な情報を処理する力が求められているということです。そのための基盤となるのが国語力であるというのは、至極当然のことのように思われます。学校で先生の説明を聞くとき、自分で教科書や参考書を読んで理解するとき、ことばで理解したり思考したりしています。それは学習に限りません。ニュースを聞いても、新聞を読んでも、図表や絵を見て情報を理解する際も、言語化して整理しています。また自分から考えを表現し、発信する場合も同様です。

これまでに大学入学共通テストのような出題傾向の試験は存在しなかったかといいますと、そんなことはありません。市立福山中学校や県立広島中学校など公立中高一貫校の入学者選抜適正検査問題がそうです。小学生が取り組むわけですから、基本となるのは小学校の教科学習の知識・技能ですが、出題傾向は同じです。まず長い問題文を読んで、たずねられていることをとらえた上で、必要な情報と不要な情報を取捨選択して情報を整理します。その上で条件に合わせて論理的に答えなければなりません。学校側の学習塾対象の説明会で度々要請されるのは、何をたずねられているのかを正しく把握させるようにすることです。実はそれこそが指導する際に一番骨を折るところです。ここで問題になるのも文章を読む力です。

大学入試改革をはじめとする一連の教育改革は、取りも直さず日本の教育が机上のお勉強に終わるのではなく、実社会で生きる力になることを目指すものです。ところが一方で、大人が想像する以上に現代の子どもたちの実体験は貧困になってきています。授業で説明していて、生活の中のちょっとしたことが伝わらないというケースが、年々多くなっているように感じるのです。わからないことに出会ったとき、子どもたちは「ネットで検索すればすぐにわかる」くらいに思っているのかもしれません。しかし、実際に自分の目で見たり、手で触れたり、つかんだりして五感でじかに感じて体験して知っているのとは、まるで違います。さらに残念なことに、一昨年からの新型コロナウィルスの流行により、子どもたちの行動があらゆる制限を受けており、豊かな経験を得る機会が少なからず失われているのです。

共通テストが行われた両日、我が塾でも受験クラス以外で学力テストを行いました。学力テストの度に生徒たちに話すのは、読書のすすめです。自ら文字に触れ、自分の言葉で考える力を高め、興味の幅を広げ、教科学習の基盤とするのはもちろんのことですが、リアルな世界で自ら体験できることには限りがありますから、本の世界でフィールドを無限に広げ、様々な人々と出会い、心を揺さぶられるような体験をしてほしいのです。年齢に合わせ心・技・体バランスのとれた成長をとげられることを願っています。

ビオラ