GIGAスクール構想
3月下旬のこと、「先生、うちの学校にもタブレットが1人に1台ずつ届いたよ!」生徒が報告してくれます。「GIGAスクール構想」によれば、2020年度中の端末拡充完了を目指すことになっていましたので、年度末ぎりぎりで届いたことになります。
さて、この「GIGAスクール構想」についてですが、文部科学省が2019年12月に打ち出した、ICT(情報通信技術)を活用した教育環境整備構想のことです。GIGAとは、「Global and Innovation Gateway for All」の略のことで、「1人1台の端末と、高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備することで、多様な子どもたちを誰一人取り残すことなく、公正に個別最適化された学びを全国の学校現場で持続的に実現させる構想」であり、教育実践と最先端のICTとのベストミックスを図ることにより、教師・児童生徒の力を最大限に引き出すことができるとされています。当初は2023年度中までに1人1台の端末を配備することになっていましたが、新型コロナウィルスの流行もあり、前倒しして実施しています。
文部科学省はこの構想を打ち出した背景として、次のようなことをあげています。
➀『学校のICT環境整備状況は脆弱かつ危機的状況』
2019年3月時点において、教育用コンピュータ1台当たりの児童生徒数の全国平均は5.4人/台。佐賀県では1.9人/台まで整備を進めているのに対し、愛知県では7.5人/台と整備が遅れており、地域間格差が顕著。(広島県6.5人/台)
➁『学校の授業におけるデジタル機器の使用時間はOECD加盟国で最下位』
OECD生徒の学習到達度調査(PISA2018)「ICT活用調査」によれば、1週間の内、教室の授業でデジタル機器を利用する時間を比較すると、たとえば理科の学習において30分以上利用している割合は、OECD平均が24.5%であるのに対し、日本は11.5%と半分以下にとどまるなど、学校でのICT利用は世界から大きく遅れている。
③『学校外でのデジタル機器利用状況を見ると、学習以外に偏っている』
「コンピュータを使って宿題をする」3.0%(OECD平均22.2%)、「学校の勉強のために、インターネット上のサイトを見る」6.0%(OECD平均23.0%)、「ネット上でチャットをする」87.4%(OECD平均67.3%)、「1人用ゲームで遊ぶ」47.7%(OECD平均26.7%)
③のように、スマホやタブレット端末がその利用目的が薄弱なままに子どもたちに与えられ、本当に必要なことにあまり活用されていないという日本の現状は、憂慮に堪えません。それを打破するためにも、ICTを学びに活用し、将来の豊かな社会へ結びつけていくことが期待されているわけです。
文部科学省はこの構想のメリットとして次のようなことをあげています。
・子どもたち一人一人の反応を踏まえた、双方向型の一斉授業が可能
・一人一人の教育的ニーズや、学習状況に応じた個別学習が可能
・各自の考えを即時に共有し、多様な意見にも即時に触れられる
具体的な活用例としては、《目的に応じた調べ学習》、《写真・音声・動画等を用いた多様な表現・制作》、《国内外のあらゆる場所をつないだ遠隔教育》、《情報モラル教育》等をあげています。
私立一貫校の生徒が、昨年来学校で導入されたタブレットを使って学習をする様子を見ていると、何と便利なツールなのだろうとつくづく感心させられてしまいます。メリットを生かし、大変上手く運用されているように見受けます。
しかしながら、ICT機器の活用はメリットばかりではなく、懸念されることも少なくありません。
・紙と鉛筆を使って手書きをする機会が減ってしまうこと
・インターネットですぐに調べることが当たり前になり、想像力や考える力が低下してしまうこと
・インターネットの長時間利用により、生活習慣の乱れ、目の疲労、 頭痛などの身体的不調、心疾患等、心身に悪影響を及ぼす可能性
ICTというツールをいかに学校教育に役立てるかは、現場の運用次第です。文部科学大臣も言うように、ICT機器や環境の整備は手段であり、目的ではありません。豊かな創造性を育み、持続可能な社会の創り手として社会形成に参画するための資質・能力が着実に育成されるために、上手に活用されることが望まれます。