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リベラルアーツ教育

教育界において最近よく耳にするようになった言葉の一つに『リベラルアーツ』というものがあります。リベラルアーツ教育とは、どんな教育なのでしょう。

なじみのない人にとっては、新しい概念だと思われがちですが、その起源は、古代ギリシャ・ローマ時代の「自由七科(じゆうしちか)」にあります。自由七科とは、「文法」「弁証」「修辞」「算術」「幾何」「天文」「音楽」の7つを指します。当時リベラルアーツは、人間が自由に生きていくため、束縛から解放されるための素養とされていました。単に知識を身につけるだけでなく、実践的な知性や創造力を養うための学問であったといわれています。

西欧社会では、リベラルアーツはそれ自体が一つの学問体系として確立されています。イギリスのオックスフォード大学やケンブリッジ大学、アメリカのハーバード大学やイェール大学などでは、リベラルアーツ教育を基礎として、大学院での法律や医学を修める教育が実践されています。社会のさまざまな分野において、幅広い視野に立って活躍できる人材を輩出している理由はここにあります。

これまで日本の大学では、一般的な浅く広い教養を学ぶよりも、それぞれの学部に特化した専門的なものを勉強・研究することに重きを置いてきました。しかし、複雑化した現代社会は答えのない問いに満ちていて、既存の画一化した問題意識やノウハウでは解決できないことばかりです。たとえば、エネルギーに関する課題においては、機械工学、化学、経済学、国際関係など文系・理系問わず幅広い知識が求められます。特定の領域の専門知識があるだけで十分に役立つとはいえません。時代は物事を多角的に判断できる幅広い教養を持った人材を求めています。そのような多角的な視点から柔軟に物事を考える力を持つことが、リベラルアーツ教育の目指すものです。

国内でこれまでリベラルアーツ教育に取り組んできた代表的な大学・学部というと、東京大学教養学部、国際基督教大学、早稲田大学国際教養学部、上智大学国際教養学部、国際教養大学などがあげられます。これらの中でもとりわけ異彩を放っているのは、国際教養大学です。

国際教養大学とは、2004年に秋田県に設立された、県立の単科大学です。秋田県立でありながら、在学生の地元秋田県出身者はわずか約14%。全国から学生が集まり、海外出身者も約8%います。入学直後に学術英語を徹底的に磨き上げ、多分野にわたる科目をすべて英語で勉強します。予習や課題図書を通じて「知識」は予習済みであることが当たり前。授業はディスカッション形式が多く、英語で自分の考えを主張し、他者の考えに耳を傾けることが求められます。さらに、全学生が50カ国に広がる199もの提携校の中から大学を選び、1年間の海外留学を経験します。語学を学ぶのではなく、自分が学んでいる政治・経済・文化などの専門科目を学ぶことが目的であり、世界のトップクラスの大学で一定以上の成績を修めて、卒業単位として持ち帰らなければなりません。異なる文化、価値観、学問に触れて、自分という『個』を磨き、自分なりの価値基準を持って、世界と対峙できる人材を育てることを目標としているのだといいます。このような厳しいプログラムが課せられることから、4年間で卒業できるのは50~60%なのだそうです。しかし、そのようなプロセスを乗り越えた人材を求めて、毎年200社をこえる企業が秋田にあるこの小さな公立大学を訪れます。卒業後の進路は名だたるグローバル企業ばかりです。

多様化する時代の要請により、近年このようなリベラルアーツ教育を前面に打ち出した大学・学部が、全国に現れるようになりました。そして2021年春、広島県内にも新しい大学が創設されることになりました。

《大学名》叡啓(えいけい)大学 (広島県立)

《所在地》広島市中区幟町1-5

《学部名》ソーシャルシステムデザイン学部 

《学科名》ソーシャルシステムデザイン学科

《目的》社会を俯瞰する視野を持ち、他者との協働のもと、 文理の枠を越えた知識やスキルを組み合わせて課題の解決を図り、新たな価値を創り出すことのできる人材を育成し、地域から国際社会まで広く貢献する。

《定員》入学定員:100人  (収容定員:400人)

《特徴》

・SDGsを意識したリベラルアーツ。SDGsの17のゴールを分類した5つのPを軸に設定。

・英語のシャワーに触れる日常。日英2言語による授業の提供。英語での授業履修のみで卒業可能。学生の4人に1人が留学生。

・デジタルリテラシーや思考力の向上。ICTやデータサイエンス、論理的思考、デザイン思考、システム思考などの課題解決に必要となるスキル向上。

・実社会のリアルな課題に挑む課題解決演習をカリキュラムに位置づけ、個別企業など多様な主体と連携した課題解決に挑戦。

・多様な主体をつなぐプラットフォーム。企業、国際機関、市町等多様な主体と連携し、実践的な学びを展開。

・多彩な可能性を広げる体験・実践プログラム。数多くのメニューをラインナップ(留学、国内外インターンシップ、国内外ボランティア)。

・アイデンティティデザイン…多文化共生社会において、人々の文化・宗教・価値観などの多様性を尊重する仕組み、持続可能な医療政策など、「誰一人取り残さない社会」の構築に向けて、実社会で生じている様々な社会課題に対応する知識を学修。

・ビジネスデザイン…各国や企業が個別の利益追求だけではなく、社会価値の創出を目指すことの必要性や、グローバル化する経済・社会の仕組みや課題、今後の産業や技術発展のあり方を学修。

・エコシステムデザイン…人々が自然と共存しながら発展していく上で不可欠な環境保全や生物多様性、また、これらに対する国際社会の様々な価値観や対応状況、自然災害への対応等の知識を学修。

 

広島叡智学園に続く広島県立の新校創設となりますが、地元広島の教育が未来へ向け変革していくための大きな礎となることを願っています。

柊の花➁