金華山からの遠景

広島県公立高校入試

9月中旬、広島県教育委員会は、公立高校の入試改革の素案を公表しました。現在約2カ月間にわたって行われている入試期間を短縮することや、調査書(内申書)についての見直しなどが盛り込まれました。

選抜種類は、現行では2月上旬に実施している『選抜(Ⅰ)【推薦入試】』と、3月上旬に実施している『選抜(Ⅱ)【一般入試】』に分けて募集してきましたが、改善案では定員の100%を2月下旬または3月上旬に実施する『一般入試(仮称)』で一括して募集・選抜し、そこで合格者が定員に満たなかった学校・学科は、現行の『選抜(Ⅲ)』と同様に3月下旬に『二次募集(仮称)』を行うことになります。一般入試では、学校・学科ごとに学力検査の実施教科の設定や傾斜配点の設定、学力検査と調査書の比重設定が可能になるほか、他の選抜方法の追加もできるようになります。また、生徒自身が作成する自己PR書を活用した面接を、受検者全員に実施するようになります。

また調査書については、これまで中学3年間の成績から算出してきましたが、改善案では中学2・3学年の2年間の成績から算出することになります。調査書も学校・学科によって、対象教科の設定や傾斜配点が可能となります。

今回の入試改革は、学校における働き方改革の観点から、中学校の教職員の負担を軽減することや、学校・学科の特色に応じた入学者選抜の充実を図り、自らの進路希望に応じて主体的に学校を選択できることをうながすことなどを意図しています。平川理恵教育長は「広島県の15歳の生徒に、どのような力を身に付けさせたいかという観点からの改善」であり、自己PR書や全受検者に対する面接の導入について「『人がどう評価するか』ではなく、『自分はこういう人間で、こういうことが得意だ』と主体的にPRする力が、これからの時代に求められる」と説明しています。

実施時期については、当初令和3年度入学者選抜(現中2生)から調査書について改定し、令和4年度入学者選抜(現中1生)からの全面的な改定を予定していましたが、パブリックコメントを受け、現在在学中の中学生からの実施を見送り、令和5年度入学者選抜(現小学6年生)より実施する方向で本年中を目途に最終的に策定・公表される予定です。

この公立高校入試改革は全国から注目される改革になりそうですが、学力検査問題も注目されるものになっています。2019年度入試における受験者平均点を見てみると、100点満点換算で英語42.6点は全国最低。国語47.2点は全国で2番目の低得点、社会43.2点は全国で3番目の低得点です。

広島県公立高校入試 選抜(Ⅱ) 過去5年間平均点推移《50点満点 ( )内は100点満点換算点

2015年度    2016年度   2017年度    2018年度   2019年度
国語 28.8(57.6)  25.6(51.2)    23.9(47.8)    23.5(47.0)    23.6(47.2)
社会 25.7(51.4)   21.2(42.4)  19.3(38.6)   18.0(36.0)    21.6(43.2)
数学  30.1(60.2)  24.8(49.6)    23.0(46.0)     22.4(44.8)    21.0(42.0)
理科 23.0(46.0)   19.7(39.4)  17.1(34.2)       19.1(38.2) 23.3(46.6)
英語 26.3(52.6) 23.7(47.4) 15.9(31.8) 24.4(48.8) 21.3(42.6)

    全国的にどの教科も問題文が長くなり、記述の割合が高まっていることから、問われていることは易しくても得点が取りにくくなってきているという傾向がありますが、とりわけ広島県の出題は教育改革の方向性を強く反映し、「思考力・判断力・表現力」を問う問題構成であるといえます。英語・国語では記述問題や作文のウェイトが大きく、話題については現代社会が抱える課題や関心事が頻繁に取り上げられるようになってきています。たとえば今年度の英語の問題では、「里山の過疎化」が取り上げられ、自分の意見を英作文で記述させるようなものが出題されました。技術的には自分の考えを表す英作文のトレーニングを積むことにより書く力をアップできますが、普段から広く世の中に目を向け、様々なことに問題意識を持って過ごすことも求められています。国語では、複数の資料を読み取り、そこから浮かび上がる課題やそれに対する考えを記述させるものが毎年出題されています。理系科目でも問題文が長文化し、対話文が度々登場してきます。たとえば理科の実験に関する考察などでは、「登場する生徒の意見が根拠にしているのはどんな事柄なのか」というようなことに注意を払いながら問題文を読み進める必要があります。また、選択問題でも「すべて選びなさい」というように完答が求められるケースが多いのも低得点の要因です。

ただ、問題が難化する一方で、持っている知識だけではなく、与えられた資料から考えて答えを導き出せるようなものも少なくありません。問題文をよく読んで、常識的に考えることで対応できるわけです。学習において一番重要なのはやはり知識・技能の基本徹底です。単なる丸覚えではなく、「なぜそうなるのか」という論理性を持って考えることが大切です。基本が充分に備わっていれば、そこから応用させて思考できます。2021年度から始まる「大学入学共通テスト」は、英語の民間テスト導入が土壇場で見送られ、ここにきて国語の記述問題の導入についてもあらためて問題点が指摘されるなど、いまだ不透明な部分があります。しかしながら、教育改革の方向性は明確です。将来につながる力をしっかりと積み上げていかなければなりません。

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