論理的思考力

近年の広島県公立高校の入試問題について、出題傾向が大きく変化していることを12月号などでもふれてきましたが、今春の入試ではその流れは全国的に加速しています。2020年に始まる新たな大学入試制度に向け、学力観が大きく変わってきていることが最大の理由です。以前の「ゆとり教育」といわれていた頃に高校以降に先送りしていた内容が復活するなどして、教科書のページ数は主要5教科合計で十数年前の1.3倍以上となり、学習量が格段にボリュームアップしている面もありますが、今回の変化は単にたくさん学習しなければならなくなったというだけのことではありません。

従来勉強ができるというと、用語をよく覚えていたり、知識がある、速く答えられるというイメージでしたが、今求められている学力というのは、基本的な学力を活用して自ら課題を見つけ、その課題の解決を図る、といったものです。そのためには、資料や図表から情報を正しく読み取ったり、論理的に思考して、さまざまな方法で適切に表現して答える…といったようなことが必要です。このような力が将来の「生きる力」になると考えられているわけです。

さて、この入試改革においてキーワードとなっているのが「論理的思考力」です。入試だけでなくさまざまな場面で取り上げられるこの能力は、問題解決、プレゼンテーション、文章作成など、将来にわたって向上させるべき能力です。論理的思考力を鍛えるためにはどうすればよいのでしょうか。ものの本には以下のようなことがあげられていました。

・筋道を立てて論理を展開する。

・短く簡潔に論理を展開する。

・相手が分かることばで説明する。

・事実をもとに論理を展開する。

・仮説を立てて論理を展開する。

・目的を意識して論理を展開する。

・反対の立場で考える。

・批判ばかりでなく自ら提案する。

どれも当たり前のことのようですが、難しいことのようにも思えます。しかし、かねてより論理的思考力を重視する入試がありました。それは市立福山中学や県立広島中学など公立中高一貫校の適性検査問題です。

ある年の市立福山中学の適性検査出題のねらいは次のようなものでした。

《検査1》資料等をもとに、課題を発見し解決する過程を多様な方法で表現させることを通して、自然等への関心、思考力、判断力、表現力などの総合的な力をみる。

《検査2》テーマや文章をもとに、自分の思いや考え等を文章で表現させることを通して、社会等への関心や主体的に学ぶ意欲、目的に応じて適切に表現する力をみる。

では、具体的にこの年の第1問目の問題をみてみますと、ある都市の家庭ごみの量の推移を表すグラフと、この都市の人口の推移を表すグラフを読み取り、家庭ごみの量がどのように移り変わっているか、またそのように移り変わった理由として考えられることを、くらしの中から例をあげて4つ書かせる、というものでした。

従来型の入試問題ならば、あらかじめ覚えていた用語や計算によって求められる答えを書かせるといったものであったわけですが、この場合はあたえられた複数の資料から読み取れる傾向を記述し、さらにそのような結果にいたった原因を日常生活と結びつけて推測させるというものだったわけです。グラフや表などの資料を読み取るトレーニングが必要であるのはもちろんですが、日頃からに暮らしの中にある問題について考えたり、さまざまなものに疑問や興味を持つ感性が必要です。そのような観察眼は机上の勉強だけでは育ちません。身の回りにあるさまざまなものが、学びにつながるような意識づけが大切だと思われます。ささいなことでも何かを見たら、何かを感じ、ものを考える習慣…ともいえるでしょうか。

菜の花