教育改革真っ只中

今春2016年度の広島県公立高校の入試問題は、全国的に注目されるものとなりました。最も目をひくのは、これまでに比べ選択問題が減り、記述問題が大きく増えたことです。5教科合計の設問数に対する記述問題の割合は、昨年度2015年度に約65%(74問/114問中)だったのに対し、今年度2016年度には約75%(83問/111問中)となり、約10%の増加。特に社会では、昨年度約41%(9問/22問中)だったものが、今年度約73%(16問/22問中)となっており、その変化は顕著です。けっして内容的に難問ばかりが増えたというわけではありませんが、設問の文字数も増えていることから、すばやく読んで題意を正しくとらえ、適切に表現して答える力がもとめられます。受験生の中には、問題文が長かったり、記述して答えなければならないというだけで、くじけてしまうものも少なくありません。おのずと受検者平均点は低下しました。

 

広島県公立高校入学者学力検査における過去5年間の各教科受検者平均点(50点満点)
国語 社会 数学 理科 英語 5教科平均
2016年(平成28年) 25.6 21.2 24.8 19.7 23.7 23.0
2015年(平成27年) 28.8 25.7 30.1 23.0 24.0 26.3
2014年(平成26年) 31.5 30.8 27.3 25.3 24.4 27.8
2013年(平成25年) 32.1 26.7 23.7 27.4 21.3 26.2
2012年(平成24年) 30.2 29.6 22.9 25.0 23.6 26.3

 

これまで社会や理科というと、暗記教科というイメージが強く、覚えることさえできれば得点力は上がると考えられがちでしたが、基本的な知識だけでなく、「各種の資料を活用し判断する能力」や、「考察した過程や結果を表現する能力」をみようとする内容へと変貌しています。これこそが今文部科学省が意図する教育改革の方向性です。単に用語を覚えていたり、知識がある、速く答えが出せるというのではなく、課題を解決するために基本的な学力を活用し、思考し、判断し、表現することが、将来本当に役立つ「生きる力」につながると考えられているのです。ですから、その思考のプロセスや根拠がより重要になってきます。2020年度に全面実施される大学入試改革に向け、現在教育現場では「アクティブ・ラーニング」導入に躍起になっていますが、その要素を盛り込んだ象徴的な入試問題として、今年の広島県公立高校入試の問題が注目されているのです。

国際的に学力を比較する物差しとされるPISA(OECD生徒の学習到達度調査)の結果を受け、2003年度の学習指導要領改訂より「ゆとり教育」からの脱却が始まりました。「ゆとり」から「学力向上」へ、「平等」から「競争」への転換は段階的に進められました。削除されてきた学習内容が復活することで、教科書は大増量! 現行の教科書は2003年当時の最少のものと比べ、小学校4教科の合計ページ数で約58%の増加、中学校5教科の合計ページ数で約34%増加となりました。すべてを授業でカバーすることは不可能ですから、自学自習がもとめられます。そこで、自ら考え、学ぶプロセスを自ら評価するということが必要になります。アクティブ・ラーニングという授業形態は、このような自己責任型ともいえる教科書を使い、いかに家庭学習でも活用して、学習の質を高められるかというテーマのもとで奨励されているのだと考えられます。今年の広島県の入試問題は、そのような現在の体制で目指す新しい学力観、「思考力」・「判断力」・「表現力」・「主体的に学習に取り組む態度」が、問われ始めたことの現れだと考えられます。

この他にも全国的に様々な変革が進められています。学力重視型入試の導入もその一つです。現在広島県の場合、選抜Ⅱでの評価は、学力検査125点:調査書130点とほぼ1:1の比で評価されていますが、7:3~8:2というように学力重視の評価の選抜も増えてきています。さらに、地元誠之館高校の数学や、市立福山高校のように、自校作成による入試問題も増えています。大学と同様に、高校でもアドミッション・ポリシーを打ち出し、それに合わせた特色ある入試を行うようになったわけです。

そして、グローバル人材育成という旗印のもと、英語教育も変わります。2018年度より、小学3年・4年で「外国語活動」を行い、2020年度にその生徒が5年生になったところから、教科としての「英語」を5年・6年生で学習することになります。ここから学習する英語の語彙数も、小学校で600~700語、中学校で1600~1800語(現行1200語)、高校で1800~2500語(現行1800語)となり、合計で現行3000語だったものが、4000~5000語へと大幅アップとなります。数値的には単語数が目立ちますが、一番大切なことは、「本当に使える英語」をマスターできるかです。「読む」」・「書く」・「聞く」に加えて「話す」の4技能をいかに習得するかが課題です。英語の授業という枠を出た活動も必要になってくるものと思われます。

教育界のドラスティックな変革は様々なところで進行中です。私たちもその流れに対応しながら、子どもたちをしっかりサポートしてまいります。

 

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