リオデジャネイロ オリンピック

この夏世界を興奮させたリオデジャネイロオリンピックは、日本選手団が史上最多となる41個のメダルを獲得して幕を閉じました。柔道、体操、競泳、レスリング、バドミントン、卓球、競歩、テニス、7人制ラグビーなどなど、新しい歴史をつくる活躍や数々の感動を与えてくれるプレーが満載の大会となりました。その中でも活躍を支えた指導という面から、いくつかの競技に特に注目させられました。

 

その一つは柔道です。特に前回ロンドンで金メダル0個に終わった男子柔道の再建を託されたのが、井上康生監督です。それまでの長時間練習と精神論に頼ったやり方を改め、スポーツ医学の専門家を招いて選手の肉体改造に着手したり、柔道本家のプライドを捨てて、海外の民族格闘技を学びました。また情報管理の面でも、有力な外国選手の情報を集めたり、対外試合で日本選手の手の内をさらさないような戦略をとりました。このようなさまざまな改革を進めた結果、オリンピックのすべての階級でメダルを獲得するという快挙を成し遂げました。やみくもに頑張るという根性論ではなく、具体的な戦略を持って行動することで、効率的に心・技・体の総合力をアップさせ結果に結びつけたわけです。

 

また、競泳200m平泳ぎの金藤理絵選手は、広島県出身ということもあり、大会前から地元メディアではたびたび取り上げられました。三次高校時代にインターハイで優勝し、19歳で北京オリンピックに出場し7位。その翌年も200m平泳ぎの日本記録を2度更新するなど活躍しましたが、その年腰のヘルニアを発症。2012年ロンドンオリンピックではまさかの代表落ち。失意のどん底から、大学入学以来師事する加藤健志コーチと二人三脚で筋力トレーニングに取り組み、ヘルニアを克服していったのだそうです。驚いたのは、メディアに登場した元日本代表選手からの、「口を開けばいつもネガティブな言葉ばかりだったあの理絵ちゃんがよくやったね!」というコメント! 勉強でも「意味わからん!」などとネガティブな言葉を頻繁に口走る生徒がいます。この種の言葉は「こんな問題、自分には無理だ」と頭っから自分で考えることを放棄してしまう態度の現れです。言い換えれば自信の無さから出る言葉でもあります。粘り強く考えて自分のものにしようとしている生徒からは決してそのような逃げの言葉を聞くことはありません。おそらく金藤選手もそんな自信の無い日々を長く過ごしていたのでしょう。でもそこからのコーチやその家族、所属会社の同僚、広島の家族の支えなど多くの人たちの精神的な支えが大きかったようです。「このままでは終われない」という気持ちで、トレーニング重ねる中で徐々にポジティブな自分を取り戻したのでしょう。リオでは競泳日本代表の主将にも指名され、期待に応え見事に金メダルを獲得してくれました。

 

そして今回一番印象に残っているのは、シンクロナイズドスイミングの井村雅代ヘッドコーチです。2004年アテネオリンピック後に日本チームを離れ、2008年北京オリンピック、2012年ロンドンオリンピックで中国代表チームをメダル獲得に導きました。そして2014年2月より日本代表コーチに復帰。「シンクロの母」と呼ばれる手腕を発揮し、今回チームとデュエットともに銅メダルを獲得し、見事マーメイドジャパン復活をけん引しました。井村コーチの厳しい練習は有名です。「何をサボっとんねんアンタは!」「ちゃんと上に跳ばんかいな!」…練習プールで怒号が飛びます。「『ほめて育てる』のではメダルなど取れません」と断言します。まるで今の時代に逆行する指導法のようにも見えます。しかし、叱りっ放しでは本人が自信をなくすだけだから、適切なフォローが必要だといいます。修正点があればその場で指摘し、その直し方を教え、それが直るまで自分の引き出しにある方法をあの手この手と駆使して修正し、できるようになったらほめるのではなく、「それで良いよ」と認めるのだそうです。本当の敵は自分だといいます。「自分はこれで限界だと思ったら、それ以上は伸びない。何か壁にぶつかったときに諦めず、もっと頑張ろうと素直に思える『心の才能』が大事! 一流になる人は『心の才能』があります。」 前述の話と重なりますね。何事も前向きにとらえ、自らトライする姿勢が大切です。

 

もうすぐパラリンピックも始まります。障害者の競技ということではなく、柔道やレスリングの○○㎏級のような一つの種目・階級として、世界のトップアスリートたちの活躍を楽しみたいと思います。