三株三色

運動と学習

お正月の風物詩というと、初詣、年賀状、注連飾り、門松、お年玉、お節料理、お餅、お雑煮、鏡開き、初日の出、書初め、初夢、凧揚げ・・・などなど様々なものが挙げられるでしょう。年末の授業時に小学生に、お雑煮のことをたずねてみると、「我が家のお雑煮」なるものに意識がある子があまり多くないことに驚かされてしまいます。地域により、おすまし雑煮や白みそ雑煮の違いがあったり、具材もお餅とミツバだけのシンプルなものからブリや昆布やハマグリなど具沢山のものもあります。餅は丸いものだと思っていたら、四角い切り餅があることを知ったときなどは、せまい日本でこんなにも違いがあるものなのかと、ちょっとしたカルチャーショックを受けたこともありましたが…。「年賀状じまい」もちらほら見られる昨今ですので、前述のような風物詩も、子どもたちが聞いたことがないくらいに、すでにすたれてしまっているものもありそうです。日本の伝統的な風習がだんだん風化していることを感じずにはおれません。

そんな今年のお正月もついつい見入ってしまったのが、お正月の風物詩の一つ「箱根駅伝」です。一人で10数キロ走って10人のランナーが二日間10時間余りかけてたすきをつなぐレースには様々なドラマがあり、見る者の感動や興味をそそります。あれだけの距離を走るのだから、毎日ものすごい量のトレーニングを積んできたことは想像に難くありませんが、大学生ですから普段は勉学に励む時間も確保しているはずです。また選手たちは大学に入学するために、スポーツ推薦やセレクションを受けて下駄をはかせてもらって入った学生ばかりではなく、一般入試だけで難関大学に入り頭角を現した選手もいるようです。そのような文武両道の学生たちの日々の生活ぶりとは、どのようなものなのか聞かせてほしいものだとつい思ってしまいます。

学力が高く運動もできるというのは、大変理想的なことであるわけですが、運動をすれば身体は大いに疲労するわけですから学習時間も減少し、普通に考えると両立することは困難なことのように思われます。しかしながら、相反すると思われがちな運動と学力には相関関係があるといいます。文部科学省が行う全国都道府県学力・学習状況調査で、上位に入る都道府県は、運動能力調査でも上位に入る傾向があることがわかりました。「運動能力が優れている子は学力テストの結果もよい、偏差値が高い高校へ入学する子は中学生の頃運動部に入部していた確率が高い」というのです。

と学力運動

また、運動することによって、神経細胞の発生・成長・維持・再生を促すタンパク質の一種、BDNF(Brain Derived Neurotrophic Factor; 脳由来神経栄養因子)という物質が分泌されるというのです。その他、脳を活性化させるドーパミンは、運動後に分泌量が増えるものであり、学習能力と深く関係があります。ドーパミンの分泌量が増えると感覚が研ぎ澄まされ、集中できる時間が長くなります。この効果は長時間続くとされており、集中したい勉強の前や集中力が途切れたときの気分転換に有酸素運動が効果的です。集中力というと、机にじっと座って高めるようなイメージがありますが、実際には身体を動かし運動することで、脳から集中力が高められるのだそうです。

そして運動すると、自然と体幹が鍛えられます。体幹が学力に直接関係あるとは思えないかもしれません。しかし、子どもたちが席について勉強している姿勢を見ていると、「この子は集中力が続かないだろうな」と思わせるような生徒をしばしば見かけます。そんなときは少しアドバイスします。一方姿勢の良い子は、リラックスしていて、いくらでも集中力を持続できそうです。一般に運動している子は、着席して机に向かうときも自然と無理のない正しい姿勢になっているように感じます。

国際的な学習到達度に関する調査「PISA」上位の常連であるフィンランドの調査では、よく歩く子ほどストレスに対する抵抗力が高くなり、勉強を苦にしない傾向があるという結果が明らかになっています。毎日の徒歩通学も、実はとても意味のあることになりそうです。自宅から学校が近い場合は、土日は早起きして散歩やウォーキングをしてみるのも意味がありそうです。

運動は規則正しい食事や睡眠との相関性も指摘されています。文部科学省の令和元年「全国学力・学習状況調査」によると、「毎日朝食をとる児童ほど、学力調査の得点が高い傾向にある」という調査結果があります。また、スポーツ庁の令和3年度「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」によると、「毎日朝食を食べる児童は体力が高い」という傾向がみられます。ところが、平成20年度の調査開始以来、朝食を「毎日食べる」と回答した児童の割合は男女ともに減少しているのだそうです。そもそも朝起きたばかりの身体は、エネルギーが不足した状態にあります。このため、朝から元気に動いたり、集中力を発揮したりするためには、朝食が欠かせません。また、朝食を食べると体温が上がり、身体も脳も活動的になります。寝坊して朝食を食べる時間がなくなるということがないように、睡眠時間をしっかり確保することも大切です。

決して部活動では運動部が良くて文化部はダメだというわけではありません。アイディア次第で日常生活の中にちょっとした運動を取り入れて脳を活性化させたり、頭をリフレッシュさせたりすることが出来るわけです。これは若い世代だけに当てはまることではありません。年代に関係なくそのような仕組みを知った上で、日頃の過ごし方をひと工夫し、リズムある日々を送りたいものです。

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