テントウムシと花

気が多い

授業で板書しながら説明しているとき、気になる生徒がいます。一つは明らかに板書を見ないで説明も聞いていない生徒。内職に神経を集中していることもありますし、心ここにあらずという感じでぼんやりしているような場合もあります。そんなときにはその生徒を指名して質問するようなこともあります。たいていの場合は、今説明したばかりのことが答えられません。このような場合、だいたいの生徒は当てられたことで修正され、正常な姿勢に戻ります。そして気になるもう一つのパターンは、きょろきょろしている生徒です。どうも色んなことに気が取られるようで、横を見たり後ろを見たり他の生徒に話しかけたり…。指名して質問してみると答えてくれることも多く、授業を聞いていないわけではないのですが、どうも注意力が散漫で、後々学習内容の肝心な部分の理解不足が露呈することが少なくありません。

この後者のような生徒は、一つのことに集中して黙々と勉強するような持続力に欠けることが懸念されます。学校では授業中の態度点でマイナス評価をされてしまいます。そしてそれは学校や塾での授業に限ったことではないでしょう。おそらく家庭学習においても、根気強く教科書を読んで理解することができなかったり、勉強する中で出てきた疑問をそのままスルーしてしまったり、すぐに勉強以外のものに気が移ってしまったりしてしまうのではないかと心配されます。

定期試験などの結果には、そのような学習姿勢が数字となって表われてしまいます。親御さんからすれば、点数を根拠に「勉強していない」と頭ごなしに叱ってしまいそうになるかもしれません。本人からすれば、「勉強したのに点が取れなかった」という気持ちかもしれません。そんなときは叱られても反発しか起こらないかもしれません。学習姿勢を根本的に変えていかなければ、本質は改善できません。

一言に学習姿勢と言っても様々な面があるわけですが、たとえば着席して問題を解いている『見た目の姿勢』にも心の中の姿勢が表れてしまいます。ある時は頬杖をついて面白くなさそうにやっていた生徒が、得意な教科になった途端に姿姿勢を正して一生懸命に解いているなどというのは、よく見かける光景です。頬杖をついているときの心の中は『何でこんな面白くもない勉強しなければならないんだろう…こんな勉強将来役立つのだろうか…』そんな感じでしょうか。実際にそんな質問を生徒から投げかけられたこともあります。しかし、そんな生徒でもやる気になると俄然変わります。こつこつと辛抱強く取り組むようになります。わからないことに出会うと、教科書に立ち返って自分で調べたり、「どうしてこうなるんですか?」「どういう意味ですか?」とすぐに質問して解決しようとします。すると分かることが自ずと増えてきますから、勉強がだんだん楽しくなってきます。

学習の基本は、『なぜこうなるのだろう』という疑問を持つことです。そしてその疑問を解決する道筋や根拠を考え納得していくことで、真の学力が育まれていきます。そのような学習は楽しい営みになっていきます。

一方で、勉強を楽しくないものにしてしまう方法も存在します。『丸覚え』です。これほど楽しくない勉強法はありません。丸覚えは短期的にはテスト対策で効果が出るかもしれませんが、すぐに記憶からは薄れてしまい、学力とはなり得ません。もちろん、丸覚えした内容でも、後から学習したことと関連することで、有機的な意味を持ったり、体系的に理解されたりする場合もありますから、付き合い方次第ですが。

こんなことを言うと生徒たちは、「学校から丸覚えの課題が出される」と言うかもしれません。たとえば英語の学習やテストで、「英文を暗唱できるまで覚える」という課題がしばしば出されます。これなどもただ単に丸覚えするものだと誤解している生徒が少なくありません。しかしながら、その課題英文にはまず学習テーマとなっている英文法や構文が含まれていて、英文を覚えることがその要素を使えるものにするトレーニングとなります。またどのような場面で使われる文であるかを想像しながら反復することで、状況に応じてアウトプットできるようになり、いわば自分の言葉にしていくことになるわけです。決して丸覚えするようなものではないのです。

話を元に戻します。気の多い生徒の特徴に、忘れ物が多いこともあげられます。持参すべきものもそうですが、教室に置き忘れるものも多いようです。授業の終了時には机の中に忘れ物はないか声掛けをしますが、心はもうどこかに移っているのかもしれません。

生活の中にはその瞬間、瞬間に集中すべきことがあるわけですが、それをないがしろにすると、後々さまざまな支障が起きたり、意図することがかなわなかったりします。誰しも幼少期は物事を全体的に考えることができませんし、長時間集中力を維持することは難しいものです。年齢が進むにつれて物事を総合的にとらえ、じっくりと考えることができるようになります。時間の経過の中で、細切れの目標と、少し長いタームでの目標意識を持つというのも一つの方策かもしれません。休憩や気分転換も必要です。持久力はだんだんついてくるものだと思われます。

義務教育から高校、大学、社会人へとステージが上がるごとに、日々出会う処理すべき事柄や学習内容は複雑になったり、スピード感を求められたりするようになります。いつも神経を集中させることなど不可能ですから、やはりonとoffの切り替え、『やるときはやる!』というメリハリが大切なのだと思われます。

りんご畑