2020冬の赤い花YouTubeと子ども

2月は受験学年・クラス以外のクラスで保護者懇談会を行いました。生徒の自宅での様子をたずねてみると、「学校から帰るとまずユーチューブを見て、ご飯食べてお風呂入ったらまたテレビかユーチューブです。」複数の保護者の方々からのお話で、子どもたちが同じような状況であることを知り、唖然とさせられてしまいました。子ども同士の会話にも、YouTubeが話題にのぼることが多いようです。

YouTubeに代表される動画共有サービスが広まり始めたのは、2006年頃です。視聴対象は音楽、映画、アニメはもとより、学習、料理、菓子作り、DIYなどのノウハウもの、旅行、スポーツ、楽器演奏などさまざまな趣味、というようにあらゆる分野にわたります。わからないことを人にたずねて教えてもらうよりも、手っ取り早く知ることができることから、便利なツールとして、また娯楽として利用する人は少なくありません。今や家電販売店の店頭にも、YouTube視聴がうたい文句の最新TVがずらりと並んでいます。

昨年夏にソニー生命保険が行ったアンケート『中高生が思い描く将来についての意識調査2019』において、中学生(回答者200名)の「将来なりたい職業」は以下のようなものになりました。

◆中学生の将来なりたい職業[複数回答形式(3つまで) 2019年6月25日~7月2日調査]

男子中学生(100名)
1位 YouTuberなどの動画投稿者 30.0
2位 プロeスポーツプレイヤー 23.0
3位 ゲームクリエイター 19.0
4位 ITエンジニア・プログラマー 16.0
5位 社長などの会社経営者・起業家 14.0
6位 公務員 9.0
ものづくりエンジニア 9.0
プロスポーツ選手 9.0
9位 歌手・俳優・声優などの芸能人 8.0
10位 会社員 7.0

 

 

女子中学生(100名)
1位 歌手・俳優・声優などの芸能人 18.0
2位 絵を描く職業 16.0
3位 医師 14.0
4位 公務員 12.0
看護師 12.0
6位 ショップ店員 11.0
7位 YouTuberなどの動画投稿者 10.0
8位 文章を書く職業 9.0
9位 動物園や水族園の飼育員 8.0
10位 教師・教員 7.0
デザイナー(ファッション・インテリアなど) 7.0
美容師 7.0
ソニー生命保険(株)ホームページより

 

 

 

「YouTuber」や「プロeスポーツプレイヤー」など、一昔前には存在すらしていなかった名前の職業が上位にランキングされており、現代の世相を色濃く反映した結果だといえます。ゲームでスポーツをして賞金を稼ぐ「プロeスポーツプレイヤー」が男子の23%を占めて2位にランキングされているのに対し、「プロスポーツ選手」はその半分にも満たない9%で下位の6位にランキングされているというのも、現代っ子の興味の方向性を示す象徴的な結果だと思われます。

話をYouTubeに戻しますが、大変便利で楽しいツールである反面、さまざまな問題もあります。その一つは、視聴時間が長くなりがちであるということです。「親がやめさせないで放っておくと、2時間でも3時間でも見続ける」という声は少なくありません。YouTubeやインターネットは、視聴者の履歴から視聴者の興味のありそうな関連動画や関連ページをAIが選び出し、次々と提供してくれるように仕組まれています。人の心理が見抜かれ、次々と誘導されるままに画面から離れられず、自分をコントロールできなくなっているとしたら、非常に恐ろしいことです。利用する場合は、あらかじめ目的意識を持って視聴することが大切です。

このような状況に自治体も動き始めました。香川県では、ネット・ゲーム依存症対策となる条例制定を目指しています。インターネットやゲームについて「18歳未満は平日60分まで、休日90分まで」「中学生以下は午後9時まで、高校生は午後10時まで」などと使用の制限を明記しています。ただし、努力義務であり、罰則規定はありません。この条例の賛否をめぐって議論が広がっています。インターネットやコンピュータゲームの過剰な使用は、子どもの学力や体力の低下のみならず、睡眠障害や授業中の居眠り、不登校やひきこもりといった問題まで引き起こすことが指摘されており、世界保健機関において「ゲーム障害」が正式に疾病と認定されたように、今や国内外の大きな社会問題です。すでに家庭の判断や管理だけに任しておける状況ではないのかもしれません。一方、条例反対派は利用者の自由な権利を守ることや自主的な判断にたよるべきだと主張していますが、この条例案は世の人々に問題提起したという点だけでも大きな意義がありそうです。

子どもたちと接する中で、このようなネット社会の影響ではないかと懸念していることが一つあります。自分の興味のあることについては積極的に取り組めても、興味のないことはあっさりと切り捨ててしまう子どもが増えているのではないかと感じるのです。まるでネットのページをクリックするかのように…です。前述のように、ネットは興味のありそうな分野の情報や関連情報を次々と提供してくれます。だから、興味のないことを避けながら、興味の引く方向へ、快く楽しいと感じる方向へたやすく流れるようになりがちです。「ネットでニュースを見られるから」という理由で新聞の購読をやめる家庭が増えていますが、これも実は、提供されるネットニュースが視聴者の個人的な嗜好や興味の数珠つなぎになってしまう傾向があり、世の中全体を中立的な視点から見通せる情報源にはなり難いという面が指摘されています。

子どもたちには、さまざまな分野に関心を持ったり、世の中の物事を柔軟にとらえて考えたりする姿勢を身に付けてほしいのです。そのための一つの方法は、本を読むことを通じて、物事をじっくり考え、辛抱強く取り組む習慣をつけることです。教育界もICT(情報通信技術)が導入され、音声や映像を駆使した、わかりすく便利なツールが盛りだくさんです。しかしながら、理解して知識を獲得するのも、創造し、表現して他者に伝えるのも、すべて自分の頭で考えて行え得ることです。自ら思考する力をトレーニングするには、文字を読んでその内容を頭の中にイメージすることが一番有効です。その過程を通じて、物事を筋道立てて、要素に分解して考える『ロジカル・シンキング(論理的思考)』や、物事の結論を考える過程において、「なぜ」「本当にそうなのか」と批判的に自ら問いかけながら納得のいく結論を導き出す『クリティカル・シンキング(批判的思考)』の土壌が育まれていきます。世の中は短絡的に考えるだけでは解決できないものであふれています。文字に触れながら想像を膨らませたり、論理的に考えたりすることの面白さを知ってほしいと願っています。

2020大予言講座