桜アップ裏参道

無限

いつも授業の終わりに、次回までの宿題を伝えます。すると「えっ、そんなにたくさん? ムリムリムリムリ!」そんな言葉が聞こえてくることもあります(苦笑)。塾での宿題は、その日の学習内容を復習することを主眼に出しています。宿題量は場合にもよりますが、おおむね30分前後で片付く程度のものです。学校とは違い、その教科の次回授業が1週間後になることも多いので、家庭に持ち帰ってから学習内容の確認をすることは重要です。冒頭のようなネガティブな言葉を発する生徒も、多くは口ぐせになっているだけで、きちんと宿題をやってきてくれています。しかし、言葉というものは発せられた途端に自分だけでなく周りの人まで暗示にかけてしまうようなところがあります。マイナスのイメージを残す言葉か、それともプラス思考の言葉かは大きな違いがあるように思われます。

今春高校に進学されたある生徒に驚かされたことがあります。中学1年生の2学期末に入塾された彼に、学校での定期考査での得点をたずねてみると、各教科ともに中学生として相応しい学習習慣が身についていないことは一目瞭然。特に英語は、その時期にして40点台前半で評定も2と危機的な状況でした。

中1の英語というのは、教科学習として初めて取り組む学年ですが、2学期までにbe動詞と一般動詞の区別や、人称代名詞の格変化や三・単・現の文など、英語学習の基盤となる重要単元が目白押しです。入塾当時の彼はそのような内容を「習ったことがあるような気がするけど…」といった具合で、文法についても語彙力についても未消化部分が多く、いわば原始人のような状況! 数学や英語は『積み重ねの教科』といわれ、基礎から積み上げていかなければ実力になりにくい教科です。また英語は授業で理解するだけでは力になりにくく、地道に宿題をしたり発音したりしなければなかなか力にはなりません。家庭学習でも意味や発音のわからない単語に出会えば、その度にていねいに調べ、自分のものにしていくことが不可欠です。しかしながら、一旦遅れをとっている生徒というのは、わからないことをそのままにしてしまうのが習慣になってしまっているというのがほとんどです。そんな『わからないことが平気』というのが恒常化している生徒の行動を180°変えるというのは簡単なことではありません。

ところが、入塾されてからの彼は、与えられた課題をていねいに消化し、一歩ずつ着実に学力を上げていきました。家庭で課題を忠実に消化する中で、勉強がわかる楽しさが芽生えたのでしょう。勉強が楽しくなると、課題をこなすだけではなく、関連して出会う疑問をさらに解決しようと自ら興味を持って領域を広げて学習していくものです。そのような自律的な学習というのは、人にやらされる勉強などよりも何倍も大きな力になるはずです。そして入塾1年後の中2の2学期には、学校の定期考査では90点台、評定も4がつくようにまでになりました。その頃には目標点はいつも100点になっていました。彼の大変身は、彼だけのものに終わらず、周囲の生徒たちにも大きな刺激になりました。みんなが競争意識を持って勉強に取り組むようになったのです。中2の夏の保護者懇談会に来られた彼のお母さんから「塾の先生に魔法にかけられたように変わった」といわれました。特別なことは何もしていません。むしろ私たちの方が、彼の変貌ぶりに驚いていました。

子どもたちの潜在能力に感心させられることは少なくありません。私たちも『この子はこれくらい伸びてほしい』というような目標意識を持って接しているのですが、逆にこれまでの経験値からその可能性を小さく見積もってしまい、『これくらいまでかな』と、いつの間にか勝手に限界を決めつけしまっているのではないかと反省させられることさえあります。まずは『自分はこんなふうになれたらいいなあ!』という目先の理想像を描くことが第一歩です。現状に満足せずに常にもう少し上に意識を持って行動したり、大きな夢を持ったりすることが、新たな自分へと導いてくれます。子どもたちは無限の可能性を秘めた宝物なのです。

山ツツジ