大予言講座 福山市立大学

わかればわかるほど、わかりやすくなる

学年末試験の勉強をして煮詰まってきた生徒が音を上げて言いました。「先生、もう覚えることが一杯で、頭がパンクしそう(苦笑)!」 確かに覚えられる量は、短期的には限界があるのかもしれませんが、たいていの場合は疲れただけのことです。休息を取ってリフレッシュすれば大丈夫。まだまだ無限に頑張れます。

人はみな赤ん坊の頃から、母親をはじめとした身近な家族から口伝で様々なことを学び始めます。読み書きこそしませんが、勉強の始まりです。そして幼児期から少しずつ平仮名や片仮名、算用数字を覚え、小学校の勉強へと入っていきます。最初はそれらを覚えるだけで精一杯だったわけですが、だんだんと漢字も覚えて読み書きができるようになると、俄然世界が広がってきます。「なんで?」「どうして?」子どもの質問攻めに困った経験のある親御さんも少なくないことでしょう。知らないことを知りたいという知的好奇心は、人間に生まれつき備わっている才能です。身の周りにあるものは何でも興味の対象になります。さらに本を読めるようになれば、生き物や自然、歴史、文学、宇宙、人間社会…と具体的な事象から抽象的な事柄も含めてますます世界が広がっていきます。知識の定着や思考力というのは、少しずつ積み上げていくもので、獲得したものを土台にすることにより、そこからもう一段発展した内容へと範囲を広げることを可能にしていきます。

さて、毎年1月に行われる大学入学共通テスト、2025年の英語の問題に出題された語彙数は5,612語でした。昨年より約700語減少したとはいえ、長文をスピーディーに読みこなすことが求められます。内容的には、センター試験で《筆記200点+リスニング50点=250点満点》だったものが、共通テストでは《リーディング100点+リスニング100点=200点満点》となり、リスニングが重視されるようになりました。またリーディングでは、かつての筆記で出題されていたような発音・アクセントや文法的知識を問う問題はなくなって読解問題がメインとなり、読み取らなければならない文章量が格段に増加しました。それに伴って出題語彙数も、2020年のセンター試験4,328語から5,500~6,300語にまで大幅に増えてきたのです。

2020年から始まった一連の学習指導要領改訂で、小学校での英語が教科化され、中学校・高校での英語教育の水準も一回りグレードアップしました。学習する単語のレベルは一段と難しくなり、高校卒業までに学習する単語数は最大で2,000語も増えました。

学習英単語数推移

このような英語教育の改革は、「グローバル人材の養成」という社会的要請に基づくものであるのはいうまでもありませんが、一方で学力格差が大きくなっていることが懸念されます。高校入試における英語の得点分布を見ると、顕著に表れています。次の図は令和6年度広島県公立高等学校入学者選抜の英語と国語の得点分布(50点満点)です。国語では30点台前半を頂上にして左右対称の山ができていますが、英語では台地状に分布してしており、学力に大きなばらつきがあることがわかります。

2024国語得点分布

2024英語得点分布

広島県教育委員会ホームページより

現在の英語教育のテーマは、「読む」「書く」「聞く」「話す」の四技能を習得することにあります。四つの技能をバランスよく習得することで、「使える英語」を身につけようというわけです。その中で、「聞く」「話す」に重点が置かれるようになり、他方で文法力や単語力が弱点になっている面が指摘されています。学習単語数が格段に増えるなど、習得するべき内容の増加に十分対応できていないことの現れでしょう。

大学入学共通テストも広島県公立高校入試の英語の問題も、読解問題が中心です。できる生徒とできない生徒の大きな差は、やはり単語力にあるように思われます。本文の一行ごとに意味の分からない単語が2個も3個もあるようでは、すぐに立ち止まってしまい、述べられている内容など到底理解できません。

表にあるような小中高校で学ぶ英単語は、理解できればいい「受容語彙」と、話したり書いたりするにも使えるとよい「発信語彙」に分けられています。ですから、すべて書けるまで覚える必要はありませんが、単語を積極的に覚えようとする姿勢が必要です。

一般的に、高校入試で必要な単語数は1,500~2,000語、共通テストレベルで必要な単語数は4,000~5,000語、難関大学入試で必要な単語数は6,000~7,000語、などといわれています。多くの生徒たちはそのようなことを聞くと「そんなの無理だ~!」と叫びそうですが、普通に教科書を勉強したり、文法を学習するなかで出てくる単語を覚えたりすることで、かなりの数の単語を自然に習得していくものです。また、ある程度の量の単語が頭に入ると、その単語の派生語を覚えることにはあまり労力を要しなくなります。幹に枝葉が付くように知識が広がりを持つようになってくるのです。わかればわかるほど、わかりやすくなるわけです。“A journey of thousand miles begins with a single step.”「千里の道も一歩から」といいます。まずは今自分の目の前にあるものから、一つずつマスターするところから始めましょう。

キク科の白い花