心と体が大事!
4月はどの生徒たちにとっても新しい季節です。新しい学校、新しいクラス、初めての先生、新しい友達などなど、大きな変化があります。未知の世界に足を踏み入れるわけですから、ワクワクやドキドキがあるのは当然。それが不安や緊張といったストレスにつながることもあります。春休みのゆったりとした解放感に包まれた状況から一転して、新しい環境に適応していくという課題に直面していくことになります。そんなストレスを上手に乗りこえていく子もいれば、つまずいてしまって苦しむ場合もあります。
そんなときに役立つのはストレスに強いメンタルです。そのようなタフなメンタルを育てるためにはどうすればよいのでしょうか。スウェーデンの精神科医、アンデシュ・ハンセンさんによれば、ストレスを避けて生きていくのではなく、ストレスを経験することで「ストレスへの耐性」をつけていくことだといいます。そのポイントは「良質な睡眠」「運動」「人とリアルに会うこと」の三つなのだそうです。
しかし、近年子どもたちの生活にこれら三つの要素が不足しているといいます。その最大の原因となっているのがスマートフォンなどのデジタル機器です。「スマートフォンなどのデジタル機器の画面を見るスクリーンタイムが増えれば増えるほど、睡眠や運動、人と会う時間が失われます。その結果、ストレスに対抗する力が弱くなり心や体のトラブルを抱えやすくなるのです。」
ハンセンさんはスマホが子どもたちのメンタル不調の大きな原因であると警鐘を鳴らしています。彼が暮らすスウェーデンでも、ティーンエージャーは1日あたり3~4時間もスマートフォンを見ているという調査結果があり、特に子どものメンタルへの影響が危惧されているのだそうです。
実は春休みが始まったばかりの先日、塾の授業で眠そうにしているある生徒に何時に就寝したのかをたずねてみると、「朝5時半くらいかな…」 「えっ、何してたの?」「ゲーム」「・・・(汗)」 その翌日、「明け方までゲームをして、正午過ぎに目覚めて昼食(朝食?)を摂らずに春期講習に来た」という別の生徒をまたもや見つけてしまいました。身近なところで短期間に同様の例が2件も判明したわけですから、まったく別世界のことではありません。
睡眠の専門医で、日本睡眠学会、日本睡眠協会の両理事長を務める久留米大学学長の内村直尚さんは、「日本の子どもは世界一眠れていない」と指摘しています。OECD(経済協力開発機構)による2021年版の調査によれば、日本人の平均睡眠時間は7時間22分。33カ国の中で最も短く、全体平均の8時間28分よりも1時間も少なくなっています。そしてその傾向は子どもたちにも表れており、青少年(9~18歳)を対象とした調査でも、日本人の平日の睡眠時間はヨーロッパ諸国と比べて1~2時間少なくなっています。内村さんは言います。「日本人は睡眠に対する意識が低いといえます。大人自身もそうですが、子どもに対しても、『早く寝かせよう』という意識が低い。幼い子どもは夜8時ごろまでにかならず就寝させる海外とは異なり、日本では3歳児でも夜10時以降まで起きている子が多くいます。夜遅くまで子どもを外に連れ出したりすることに問題意識をもたない大人も多い印象です。そうした文化的背景が、子どもの睡眠不足の一つの原因になっています。」
アナログの中で暮らしていた我々の子ども時代には想像もつかなかったような、刺激を求める人間の脳の欲求を満たしてくれる、便利で魅力的な文明の利器があふれる時代です。それだけに本当に必要なものと不要なものとを区別する力も求められているのです。スマホや様々なアプリを次々と販売している企業は、自分たちの利益追求のために開発に勤しんでいるということも忘れてはなりません。私たちの心や体の健康は、自ら考えて管理する必要があるわけです。
さまざまなストレスを乗りこえていくために、心と体のコンディションを整える「良質な睡眠」「運動」「人とリアルに会うこと」の重要性をあらためて感じます。