苔むす庭

 

英語教育改革の方向性

我が国の英語教育が大きく変わろうとしています。従来のように言語の構造を教えたり、知識を与えるというところからコミュニケーションのやりかたを覚えていくという手法ではなく、まずはコミュニケーションのやり方を覚えていき、そこから出てくる気付きに対して知識を与えていくような形で学習を進めていくというように、アプローチの方向を変えていくものであると説明されています。グローバル社会で活躍できる人材を育成することが一番の目標ですから、発信能力をつけることに重点が置かれており、求められるレベルはこれまでより数段高いところにあります。これにともなって、高校卒業までに学ぶ英語の指導語彙数も1,000~2,000語増加します。

学習指導要領に基づく教科書で学習する英語語彙数

年代 小学校 中学校 高校 合計
1980年代 900~1,000語 1,400~1,900語 2,300~2,950語
1990年代 1,000語 1,400~1,900語 2,400~2,900語
2000年代 900語 1,300~1,800語 2,200~2,700語
2010年代 1,200語 1,800語 3,000語
2020年代 600~700語 1,600~1,800語 1,800~2,500語 4,000~5,000語

(文部科学省「旧学習指導要領」および「外国語教育の抜本的改革のイメージ」より)

 高校卒業までの学習語彙数が4,000~5,000語とは、大幅な増加です。ただし、文部科学省は「受容語彙」と「発信語彙」の区別を意識して指導することを求めています。「受容語彙」とは読んだり聴いたりするときに理解できる語彙のことで、「発信語彙」とは実際に話したり書いたりするときに使える語彙のことです。この「受容語彙」を4,000~5,000語としているわけで、そのすべてを「発信語彙」として使いこなして話をしたり、文章を書いたりできるようになることまでは求めているわけではないのです。

昨年度(現在の中2生)から福山市内の近隣の中学校で英語学習に導入されている『ラウンドシステム』も、このような英語教育の改革の方向性を受けて始まったものです。一冊の教科書を、➀『大まかな内容をふまえて聞く)』➜➁『聞く内容と文字の一致』➜③『音読と転写』➜④『英文暗記』➜⑤『リテリング(ピクチャーカードを見ながら英語で説明)』というプロセスで一年かけて学習するというものです。まずは『聞くこと』が優先されるため、「意味がわからなくてもいい」わけで、自ずと辞書を使って発音や意味を調べたり、覚えることがおろそかになっているという傾向があることは否めません。それぞれのラウンドの学習テーマが徹底して行われることが不可欠ですが、塾で生徒たちに「CDなどの音声を先生から指示されている通り聴いているか」をたずねたところ、指示された量のおおむね2~3割程度しかできていないとの回答が得られました。

中には、「CDのパッケージも開けていない」という生徒もありました(汗)。ラウンドごとの課題をしっかりと実践していくことが求められます。

さて、当塾が加盟する教育ネット21では、中学3年生を対象に「英単熟語トレーニングジム」を毎年行っています。これは、広島県公立高校入試15年分から抽出した400の英単語と100熟語を、暗記タイムとテストを繰り返していき、一日かけて覚えていくというものです。例年は高校の大教室をお借りして、教育ネット21加盟塾の中3生が集結して開催しておりましたが、今年は新型コロナウィルス感染防止のため、各塾の教室に集まり、その各会場をインターネットで結び、同時進行で開催します。

毎年このイベントに参加してくれた生徒たちは、感じてくれたさまざまな収穫を述べています。その一つは、『自分の実力を改めて認識できるということ』です。この暗記会では、現時点の実力を知るためにまず『自己認知テスト100問』を行いますが、自分の考えているようなスコアにならない生徒は少なくありません。普段から塾で行う単語テストなどで丁寧に覚えている生徒は、まずまずの結果になっているようですが、最近は学校で単語テストを行うことが少なくなっているようで、定期試験前の勉強で試験範囲の単語や熟語表現を覚える程度です。英語が得意になる必須条件は、習い始めの頃から単語の覚え方のコツをしっかり体得し、その上で普段から地道に覚える習慣をつけることです。ひと昔前ならば、単語帳や単語カードを作って覚える努力をしている生徒も見られましたが、今ではほとんど見られません。したがってそんな今どきの中学生たちにとっては、とてもハードで刺激的な一日になることでしょう。

この暗記会では、英単語・英熟語をその発音や例文などが書かれた暗記シートから覚えていくわけですが、ノートに繰り返し書いてみたり、隠して確認したり、覚え方の工夫も生徒によりさまざまです。何事も自分で苦労する中で、自分に合う方法を見つけることが大切です。

朝最初に『自己認知テスト』を受けた後、暗記とテストが8ラウンド繰り返されますが、ラウンドごとに成績が集計され、成績上位者や上昇率(朝の自己認知テストの得点からの変化率)上位者ランキングの途中経過が発表されますので、刺激になります。英語が得意な生徒は常に満点を目指して頑張りますし、普段から英語学習をサボり気味の生徒も、今までぼんやりとしかわかっていなかった単語が自分のものになることを実感できるので、「頑張れば覚えられるんだ」という気持ちになってきます。

8ラウンドの暗記とテストを終えた後には、修了テストがあります。朝一番に受けた自己認知テストに比べ、格段にアップしている成績に、達成感を感じてくれます。しかしながら、Rome was not built in a day. わずか一日では本当の実力とはなり得ません。地道な継続こそが真の力を生みますから、その後の学習の弾みにしてくれることが望まれます。

そしてこのイベントで一番の収穫になるのは、これまで会ったことのない、名前も顔も知らない同学年の生徒たちと共に取り組むことで、自分が受験生であるという現実が否応なく突きつけられることです。自分が受験生であることは頭では理解しているつもりでも、実際にその競争相手となる受験生の姿を見て感じるのとは大きな違いがあります。残念ながら今回は机を並べることはできませんが、各塾の会場をネットで結んでの同時開催ですので、頑張っているのは自分だけではないということが実感されるはずです。普段の学習の糧となり、受験へ向けてモチベーションを一段と高める契機になることを願っています。

杉林