グローバルリーダー育成校
先日総務省が発表した国勢調査によると、日本の総人口は1億2711万人で5年前の調査より約95万人の減少で、1920年の調査開始以来初めての人口減少となりました。また現時点(2015年)で約2,200万人いる0-19歳人口は、2060年には約1,100万人に半減することが予測されています(国立社会保障・人口問題研究所推計)。一方経済面でも、OECDの試算では、世界のGDPに占める日本の割合は、2011年に6.7%あったものが、2060年には3.2%に低下し(米国16.3%,中国27.8%,インド18.2%)、世界における地位は埋没し、主要先進国の所得格差も2060年には約3割拡大することが予想されるなど、我が国の将来像は楽観視できる状況だとは到底いえません。そんな中、技術革新はまさに日進月歩で、今後10~20年程度で現在の日本の労働人口の約半分が就いている職業が、人口知能やロボット等に代替するといわれるほどです。「やっちゃえ○○!」というキャッチフレーズの某自動車会社の自動運転技術をアピールするコマーシャルなどは象徴的な例です。現在の小学生たちのおよそ半数が将来「今ない仕事」に就くという予測もあります。
そんな大きな変化が見込まれる我が国の将来を生きる力、国民の幸福度を高める鍵はやはり教育だということで、広島県教育委員会では「『学びの変革』アクションプラン」を2014年12月に策定。誰もが「新たな価値を生み出すことのできる人材」になるために、「学び続ける力」を育成するための「主体的な学び」の実現を目指して、小・中・高の系統的な対策を進めようとしています。そして「学びの変革」を先導的に実践する場として、新たに「グローバルリーダー育成校(仮称)」の設置を2月に発表しました。

 

広島県立グローバルリーダー育成校(仮称)の概要
開校時期:2018年4月1日(予定)
設置形態:併設型中高一貫教育校
課程・学科:全日制課程普通科
通学区域:全県一円
学校規模:計360人(中学校:1学年50人、高等学校1学年70人)
寄宿舎:設置(全寮制)
卒業資格:日本の高等学校の卒業資格 及び 国際バカロレア・ディプロマプログラム(IBDP)〈導入検討〉

 

この学校のメインコンセプトは「多様性の拡大」とし、以下3点を主な特色としています。
・高校から1学年20名の外国人留学生を受け入れた、全寮制という学習環境
・国際バカロレア・ディプロマプログラム(IBDP)
・国際機関と連携したプロジェクト学習
「国内の難関大学への合格」を目的とするようなこれまでの「知識ベースの教育観」に基づいたエリート教育を行うのではなく、プロジェクト学習を核とした新しいカリキュラムを開発し、現在の枠組みにとどまらない先端的な教育を目指します。
そして国際バカロレア(IB)とは、生徒を主体とした独自の教育理念に基づいて1968年に設立された非営利教育ルを育成し、1つの国の制度や内容に偏らない世界共通の教育プログラムを開発することを目的としています。成長段階や進路に合わせ、PYP(3歳~12歳)、MYP(11歳~16歳)、DP(16歳~19歳)、CP(大学以外の進学を目指したキャリア関連プログラム)の4つのプログラムを提供しており、現在世界147の国や地域の4300以上の学校で導入されています。今回導入が検討されているDP(ディプロマプログラム)とは、16歳~19歳を対象とし、2年間の課程を終え最終試験に合格することで、世界各国で認められている大学入試資格を得られるプログラムで、このグローバルリーダー育成校では高校2年からベースカリキュラムとして導入する予定です。このDP導入へ向け、中学3年間は学習言語を日本語中心で行いますが、外国人留学生が加わる高1からは英語中心で授業を進めていきます。

 

このように「国際バカロレア(IB)」という耳慣れない言葉がにわかに注目されるようになった背景には、政府が日本再生戦略の中で、「グローバル人材育成」という旗印のもと、国際バカロレア認定校を2018年までに200校にまで増やすと閣議決定したことがあげられます。また国立大学協会が2015年9月に発表したアクションプランに、推薦入試・AO入試・国際バカロレア入試等での入学割合を、2021年までに定員の30%にすることを目標に定めたことも拍車をかけています。これらによりIBDPのスコアを用いた特別入試を導入する大学が急増し、今年度入試ではすでに慶應大、上智大、筑波大、東京大、早稲田大、京都大、大阪大、関西学院大、岡山大、広島大など27大学が導入済みで、来年度以降も北海道大、お茶の水大、東京工大、名古屋大、九州大などで導入が検討されています。
当初IBDPは、「国際的大学受験資格」という意味合いから、英語・スペイン語・フランス語を使ったものに限られていましたが、近年導入している国に合わせ、「ドイツ語DP」、続いて2013年には「日本語DP」の開発・導入が認められました。「日本語DP」では英語と数学以外の教科は日本語での授業が可能なので、大変導入しやすくなります。国内大学の入試にも活用できるとなると、ますます導入する高校は増えそうです。
広島県の教育をけん引するリーディング・スクールという意義から設置される県立のグローバルリーダー育成校。そこで実践しようとしている教育はとても先進的に見えますが、決して他人事ではなく、ドラスティックな教育改革がすべての学校で進められます。2011年から始まった小学校5・6年生での外国語活動は、2018年からは小学校3・4年生で行われるようになり、5・6年生での英語は、国語や算数と同じように評価のつく「英語」へと教科化されます。また大学入試改革により、思考する過程や考えを表現する力、物事をさまざまな角度からとらえ議論する力を重視するような、今までとは異なる学力観が強まることが考えられます。そのような流れを見据え、子どもたちの探究心を育めるよう、日々生徒たちに接していかなければなりません。